忘れ物
途方もなく長い
駅までの道を
大人の足で五分
私とあの子だと三十分
気持ちの赴くまま
石ころや短い木の枝を拾いながら
少しづつ
距離を詰めていく
地下鉄に続く階段の手前
拾い集めたものは
ここら辺に
置いておこう
帰ってくるまで
お留守番していてもらおう
少しだけ寂しそうに
手放す
保育園でバイバイする時みたいに
遊んで帰る頃には
あの子は
忘れているだろう
もしなくなっていたとしても
その時に
適当な理由を探せばいい
地下鉄博物館は楽しかった
思ってたより沢山遊べて
ミスドも食べたし
もう眠そう
帰り道
別の出口から帰ってもよかった
けど
手放したままの形で
あるのか
なくなっているのか
確かめなければいけない気がした
あ
あったー
あの子は喜ぶそぶりもなく
当たり前のように拾った
もしも
なくなっていたら?
おなじようなものはたくさんそこらじゅうにおちている
ということを
私は
そんなことを教えようと
あの子は
いつの間にか
そんなことを
当たり前に
三十分が
五分になることをー
駆け出していく小さすぎる背中
一人で行かないで
行かないでよ
一緒に
おうちまで持って帰って
いいから
コメント
なんてすてきな。
恋に似た胸の締め付け感がありました。
我が家はビニール袋を常に持ち歩く系でした!
どうしてなんでも拾うのかなって。寂しさなんだろうな。
葉っぱとか枝なんだけど、多分、あれは服や鞄や指輪…これから手に入れていくものの代わり…考えてしまいます。