『多目的公衆便所』 

     

 古い子守唄では
 もう
 寝ついてくれないから
 巻いてあげましょう
 その細い首に
 
 そんな
 小さな口の奥から
 そんな
 細い喉の奥から
 どうして
 そんなに
 力強い声を
 出し続けることができるものなのか
 オートリバースで
 出し続けることができるものなのか

 巻いてあげましょう
 その細い首に
 巻いてあげましょう
 あなただったモノを
 あなたとわたしを繋いでいたモノを
 あなたの
 へその緒を

 やっと
 静かになった
 その時に
 ほっと
 くつろげた
 その時に
 だんだん
 あなたが冷めていく
 この時に
 こんなにも
 わたしが冷え切っていくのは
 なぜ
 骨盤の付け根から
 いいようのない
 冷気が伝わってくるのは
 なぜ

 あなたは
 あの人ではない
 あなたは
 わたしではない
 あなたがいると
 窮屈になる
 あなたがいると
 わたしは
 縛りつけられる
 あなたの
 その
 細くて
 ぶよぶよした
 短い腕で
 縛りつけられる
 わたしは
 あなたにしがみつかれて
 吸い取られる
 わたしが
 軽くなって
 足元がおぼつかなくなる
 それでも
 あなたはわたしにしがみついて
 ぎゅっと
 わたしの肌をつねる
 わたしが
 しぼんでいくにつれて
 あなたは
 赤らんで
 ふくらんでいく
 わたしが
 こんなにしぼんでいるというのに
 おかまいなしに
 あなたは
 しがみついて
 吸いつくして
 ふくらみ続けようとする

 そこから
 解放されたはずなのに
 あなたから
 解放されたはずなのに
 何故
 何故
 なぜ

 リセットボタンを押しましょう
 リセットボタンで流しましょう
 セーブしていた
 場面から
 やり直しましょう
 別のルートを
 探しましょう
 隠しアイテムを
 もう一度
 探してみましょう
 流す
 ボタンを押しましょう
 
 けれども
 何度
 レバーを下げても
 あなたは
 ちっとも流されません
 小さいくせに
 大き過ぎ
 何度
 水を流せども
 つっかえて
 流されません
 どうしたものか
 彷徨って
 ネットで
 検索
 探索
 しようとしたけれど
 検索用語が
 わからないので
 検索のしようがありません

 堂々巡りの
 その末に
 ほとほと
 困り果てたというのに
 わたしは
 困り果てたというのに
 あなたは
 やっぱり
 塞いだままで
 わたしの
 未来を
 塞いだままで
 わたしの
 未来に
 しがみついたままで
 もう
 息もしていないくせに
 電池が切れて
 オートリバースの機能も
 停止しているくせに
 それでも
 わたしの未来を
 ぎゅっと
 つねろうとしている

 さすがに
 だんだん
 腹がたってきます
 イライラが
 つのってきます
 カルシウムが足りないのかも
 しれません
 気をつけなくては
 いけません

 とにも
 かくにも
 処分
 処分
 大きすぎる
 廃棄物は
 細かく刻む
 それが基本
 けれども
 あなたの
 肉と
 骨は
 面倒そうで
 どうにも
 処理が
 大変そうなので
 ガーデニングの
 肥料に再利用と
 有機農法に
 再利用と
 地球にやさしく
 エコアクションと
 ラディッシュと
 プチトマトを
 植えている
 畑の下に
 埋めてしまえば
 これがよし
 なんて素敵な生態系

 わたしを
 吸いつくした
 あなたを
 吸いつくして
 育った
 自家製野菜を
 摂取すれば
 リサイクル
 みんなに
 やさしい
 リサイクル
 ラディッシュも
 プチトマトも
 みんなが
 よろこぶことでしょう
 わたしに
 やさしい
 リサイクル
 ああ
 まちどおしい
 まちどおしい
 そうと決まれば
 はやく
 はやく
 おうちに帰りましょう
 やっぱり
 あなたを詰めて
 帰りましょう
 楽しい
 楽しい
 ガーデニング
 おしゃれに
 いろいろ
 いじってみよう
 ガーデニング
 ホームセンター
 何時まで
 急いで
 詰めて
 帰りましょう

 うふふふふふふ
 うふふふふ
 うふふふふふふ
 うふふふふ

投稿者

高知県

コメント

  1. いやあ、おそろしい。何がおそろしいって、題材そのものより、この狂気的な語り口だ。心情的には度々ニュースになるこういう出来事は傷ましく思うが、怒涛のように紡がれる言葉から女の情念が噴出して、ひどく一般化してしまうあたりが、一番おそろしいなあ。

  2. こういった傷ましい出来事が世の中に存在することに想像力で肉迫し、この詩が書かれることで、読まれることで、少しでも癒され救われる人がいることを切に望みます。

  3. これはトノモト氏も書かれているが、耳にしたことのあるニュースよりも作者の狂気がうわまわっている。
    この場合の狂気はもちろん憧憬しちゃう狂気で、実際の事件はそのままの狂気。
    醜悪(に感じる)ものは感情を波立たせ易いのだけど、この詩のようにその奥地も見てそれぞれが思うことを思えばいいんじゃないか。

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