車上あらし

白日の先を見せてやろう

1986年は
今より夜が長く暗かった
NTTがまだ電電公社と
呼ばれてた時代の話しだ

車上あらしをした事があるか?
おれはある
高校をクビになった
15の6月
岡山から電車をキセルして
東京まで来た

春から東京に暮らし
高校に通う事になった
俺の友達
玄場光浩が住む
浪人生達が
一人暮らしをしている
東武東上線 東武練馬駅
歩いて10分の下宿に
もぐり着いて

金を稼ぐために
毎朝パチンコ屋に
勝負をしに行き
俺は毎日30日間勝ち続けた
昼間は東京をぶらつき
着る服や食い物は万引きした
毎日が楽しかった
15のガキだ
罪悪感
考えるわけがない

俺以外
全員敵だ

ある日の夜
大学を浪人してた
玄場の兄貴が
俺たちの小部屋に
TVを見ろって
運んで来た
アルゼンチンvsイングランドの
ワールドカップ公式戦
マラドーナが
とにかくヤバすぎて
神の手でゴール決めたのも
生中継リアルタイムで見た
もしかしたら
それが俺を
作ってるかも知れない
などと言ったら?

冗談だ
間に受けるな

当時あれだけ騒がれた
マイケルジョーダンの現役時代に1回もプレイを見なかった
俺が言うのだから
きっと間違いないさ
なんくるないさー


ある夜玄場が寝てて
暇だから一人で
深夜徘徊してる時に
車上あらしをやってみたら
車のドアが開いて
封筒の中に入ってた10万円を
見つけたんだ

蒸し暑い
7月のはじめだった

封筒には
いろんな名字が書かれていた
少年野球のユニフォームを
作る金だっだって事を
側に置いてあった
発注先の紙を見て知った
最大のラッキーを感じながらも
俺に罪悪感はなかった
微塵も感じなかった

みんなから徴収した金を
俺にまんまと盗まれ
責任追及されたはずの
多分監督だった奴と
子供の為に
ユニフォーム代を
出した親には悪いことを
したなと
30年経ったぐらいで
思い返したりしたが
ストリートは
気を抜いた奴がバカなんだ
昔からそうなんだよ
俺は少年だったから指紋も
取られてないし
当然のように痕跡なんて
残さなかったぜ
そこまで間抜けじゃねえ

でも悪い事は続かないんだ
こっちに来て30日経って
はじめてパチンコに負けた日の夜
はじめて玄場を誘って
3度目の車上あらしに出発した
あいつも暇だったから
俺に付き合った
3駅ぐらい歩きまわって
途中で歩くのが
めんどくさくなって
鍵のかかってないチャリを盗んで2人乗りして
下宿に戻っていた時に
警察官に二人乗りを注意され
止められた
俺は二人乗りが駄目だって事も
知らない無知なガキだった
田舎じゃみんな
二人乗りだったからな

チャリンコの防犯ナンバーを
調べられて2人共
交番に連れて行かれ
住所を聞かれたので
玄場の寄宿舎で暮らしてる事を
言ったら
お巡りが寄宿舎の
大家に電話した後で
始末書を書かされて
俺達は解放された

解放される前に
ポリ公が言った
最近車を狙った
車上荒らしが多発して
パトロールしてたんだ
君達も
もう絶対こんな事するなよ
ポーカフェイスを装ってみたが
俺の心臓は
バグバグだった
解放され
神が俺を許し
守られてる様に感じられた

次の日
寄宿舎のババアに酷く怒られて
俺は玄場と別れ
キセルして岡山に帰ると
玄場の母親から電話があった
仲が良いのはわかるけど
もう会わないでね
俺は はいと答えるしかなかった

その後
玄場の通う
慶應義塾高校も夏休みに入り
岡山に戻ってきた
その夏
玄場は俺の家になんと
23連泊した
母ちゃんごめん
毎日ごくつぶしの俺達に
飯を作ってくれて
あんたは仕事もしてたのに
ぐち一つ言わず
あんたの事を
家政婦ぐらいにしか
考えてなかった
俺たち二人に

この夏の1年後
俺は東京に出て行き
どう言うわけか玄場とは
連絡も取り合う事もないまま
会わなくなっていった

住む世界が違うまま
俺達は交わる事なく
変わっていった
それでも俺を
おまえのディズニーシー
での結婚式に
呼んでくれてありがとうな
タバコ吸ったらミッキーマウスに
嫌な顔された気がしたけど
俺は嬉しかった

で、
時はぐんぐん進んで
37、8歳の頃
俺は会社の社長で
玄場は弁護士になっていた
久しぶりって電話したのは
仕事でトラブって
法的助言を軽く
貰いたかったからだが
奴は法律の事ならお金を貰うと
友達の俺に
言いやがったがったので
俺は
ああ わかったとだけ伝えたが

てめえ俺ん家に
何連泊したんだ
あん時?
クソヤロウ!
の思いが燃え上がり

奥さんとは仲良くやってんのか?
子供は?と聞いた瞬間
奴は電話を切りやがった
岡山弁で話してた二人が
東京に来てこっちの言葉で
話すようになって
六法全書暗記する程の
脳みそ持ってるおまえが
昔の事を思い出せなんて
俺は悲しいよ

子供のいない
おまえ達二人は
風の噂で
ベイブリッジが見える
タワーマンションで暮らし
ワインセラーに趣味で集めた
ワイン眠らせてるそうだな
全部飲みに行ってやろうか?

まあそんな事はもう
どうでもいい事だ
俺は車上荒らしで
パクられたり
16の時
盗んだ原付を
旧国鉄の団地に
停めてあったバイクの
ガソリンタンクから
夜中にガソリンを盗もうとして
シュポシュポで補充してた時に
どんくらいガソリン入ったか
確かめようとして
ライター付けたら
火がタンクに燃え広がり
他の自転車たちにも
火が燃え移り
やばいと見て慌てて逃走して
その日の夕方の山陽新聞に
現在警察は捜査中の文字を
見たけど捕まらなくて
今ここでこうして
犯人は俺だと
真実を伝えた白日

全てをどうか忘れさせてと
東京で降る雪は
しんしんと
いつもよそ雪
雪でノイズを圧縮して
交通網を遮断して
停まってる車の事なんか忘れて
俺は暖かい布団で
一人でいても
天使に抱かれて
眠りに堕ちている

玄場
おまえは起訴されたら
99%有罪の
茶番裁判国日本の法廷で
何を今日も
弁護してるんだ?
自分の弁護をする前に

おまえの白日なんて
俺は興味ねえぜ

投稿者

東京都

コメント

  1. いいねー

  2. @花巻まりか
    ありがとう。単なる回想だけどね 笑

  3. 自分中心に宇宙が回っていた頃を思い出しました。

  4. @橋大工
    思い出してくれてありがとう

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