車窓

 二両電車のシートから
 真向かう窓 で
 連なる民家の軒と緑の蔭

 物皆の息吹き
 重々しくもあり
 閑かなる虚しさに堕ち行く
 薄暮のとき

 欠伸を殺し盗み見る
 斜め向かいに居る中年女性は背を丸め
 図書館のラベル貼られた分厚い本を
 この数日 読み耽っている

 カーブするレールの振動で流れる目線に飛びこんで来た
 ブロック塀の黒ずみから噴き上がる
 八重ヤマブキ
 湿った春の
 暗い隘路に咲き誇る黄金色は
 今日と明日の合間で無意識に明滅する
 惰弱な心を砕いてしまった

 肉も骨もプラズマの塵となって
 あの窓を、突き抜ける時
 蜘蛛の網のように亀裂が生じ
 私なるもの消え失せ

 そして又 現れる
 生き延びる為に
 誰の目にどんなスガタで映ろうとも

 
 
 

投稿者

滋賀県

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