萩

不忠義の志士たちが
由比ガ浜に野宿しているのである
流木を集めて鍋に海水を入れ
いつ終わるとも知れないこの停滞する時間を
ジャズを聴きながら
口笛を吹きながら
悄然とした景色だけの待ち時間なのである
異国船打ち払い令によって
花火が上がったのである
夏の夜空に大輪の花が咲く
北極星の尻尾の方がその火で燃える
ペリカンの袋で我が子を引き受ける
感動的であるから用水路に自転車ごと
落下して
その時水は20センチしかなかったのだが
酔っていたので、がばがばとその水を飲むのだ
だから肺の中には用水路の水がたんまりと
入っていたのだ
それから脳の中にはイギリス人の生首が
入っていた
それはたぶん横浜の領事館を焼き討ちした時のものであろう
脳内の生首は年月を経ても生々しいのである
それから自転車であるが
これは萩市内で盗難にあっていたものである
河口付近では海運業の船が停泊している
観光ホテルが何軒か見えるのであるが
この場所からは川向うである
細い通路を通って
建て込んだ家々の間を歩いて
外国人の好みそうな場所を探す
平均的な旅行者がスマホで写して
思い出として撮りたくなるような景色を
異国人の声がして
家の中で大きな笑い声がする
多分それはテレビでお笑い番組を見ているのであろう
日本語の漫才を理解する彼の横で
女は緑茶を入れている
それから〈せんべい〉を二人で齧っている
わたしは刀を抜いて
ずかずかとその家へと入っていく。

投稿者

岡山県

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