サインはパンの匂いがする
ケイくんがピッチャーで
ぼくはキャッチャー
サインはストレートとカーブだけ
あの小学校も中学校も
いまはもうない
ケイくんはいつも
甘いパンの匂いがした
彼の家がパン屋だったから
だがベーカリーケイも
いまはもうない
最後のサインは
さよならだった
さよならだけではさみしくて
もういちどさよならをして
それでもさみしくて
またねと言った
サインは変わらない
左の掌をポンポンとたたいてみる
いつもの朝が
ひとりぼっちでやってくる
食卓にはパンと牛乳とマーガリン
ベーカリーケイのパンではないけれど
パンには賞味期限がある
コメント
ノスタルジックな全体の雰囲気から最終行の『賞味期限』というあえての違和感みたいなものの提示がこの詩の魅力になってる気がします。
忘れてもいいのさ
きっとそのうち思い出す
あぶくもさん
読んでいただき、ありがとうございます。
この詩の賞味期限も短いかもしれません。
わにわにさん
読んでいただき、ありがとうございました。