蕾

蓮の若葉に沿い
朝夕歩いていった。

昨夜風雨があり
育ったばかりの茎が折れていた
その光景が
視界の端のほうに残った。

週末の上野、不忍池は観光客たちで賑わう
蓮は陽光に映えみずみずしい姿を見せた
投げ捨てられた空き缶のすぐ脇で
葉は風に煽られ
水際で一匹の鯉が口を開けた。

ある日ひとつの茎から
蕾が膨らんでいた
蕾の先を眺めてみた。

認知症の方を
見舞ったばかりだった。

蕾は丸みを帯び
空を恥じらっている
彼女の病室での顔を思い出していた
今まで見せたことのない表情だった。

六月を過ぎると
蓮は勢いを増しながら茎を伸ばしていく
早朝の道で立ち止まってみた。
暑い一日になりそうだ。

投稿者

東京都

コメント

  1. >空を恥じらっている

    まさにそんな面立ちですね。
    蓮の蕾や葉の揺らぎや捨てられた空き缶
    散歩の途中で視界に入ってくるものは
    物思いのきっかけになりますよね。
    ゆったりとした歩調と心の揺らぎが伝わってくるようでした。

  2. @nonya
    nonyaさん、今年も、蓮の季節が近づいてまいりました。今月の下旬ごろには花が咲くと思います。私は蕾の時期も好きです。歩いていると、きれいでないものも目に入ってきます。それらを含め、世間なのでしょうね。

  3. 何度も訪れている場所の時間的な蓄積と、お見舞いをされた出来事や心境とのバランスが絶妙で素晴らしいのだと感じます。

  4. @あぶくも
    あぶくもさん、彼女は、不思議な表情をされていました。あの表情は忘れられない。彼女の表情に、不忍池の蓮の蕾を重ねてみました。…切ないですね。

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