マジタナカ
えー、んー、と、ごめん、誰だっけ?
誰でしょう?
田中?
そう、タナカです
うそ! ちょっと変わりすぎ、まじ、田中!?
ハッハ、マジタナカです。
おれは知らない同窓会に参加する
知らない学校の初めましてのクラスメイトたちと会うのも何年振りだ?
記憶にない思い出話に嘘の花が咲く
知らない奴らが言う
そうそう、先生、泣き出しちゃって
みんなで先生の似顔絵描きたいからって、美術室で
できたって言って、見せたら、みんなゴキブリとか先生の胸だけとか描いてて
ヒトのココロの折り方を練習する放課後
中学の美術部は木枠に張った布にゴッホのひまわりを模写するらしい
まったく、と、おれがマジタナカならこう言う
自分が何を描き始めるかは描き終わるまで分からない
無限の両端がつながる領域では自分自身との和解が成立するのかもしれないが、
ここは同窓会の会場だ、ホテルの宴会場で開かれている立食パーティーで
おれはミートソースのスパゲティを大皿からトングでぐるぐると巻いて持ち上げる
自分の皿に置いたとき、
一本だけ自由な軌跡を描いた麺からはねたソースがおれのワイシャツのそでに赤いしみをつける
おひさしぶり、マジタナカくん
誰?
マジスズキよ、忘れたの?
ほら、マジサトウ、マジヤマダ、マジキムラ先生たちも来てるんだよ
マジサトウがおれに向かって手を振る
本当はマジスズキはマジタナカのことが好きだったんだよな
それは知らなかったよ、本当に
本当ににぶいな、マジタナカは
本当は、本当に、
おれたちはその後も本当という言葉を何度も繰り返して言った
まるで本当を本当に取り戻せるとでも思っている人間たちだった
おれにとって青春は体験したことのない、ただの知識だったが、
それはマジスズキたちにとってもそうだったらしい
おれたちは知らない同窓会に飽きると、じゃ、またねと言って本当に別れた
ワイシャツの袖にミートソースのしみをつけたことは忘れない
クリーニングに出せばシャツのしみは消えるが、
宇宙が滅んで次の宇宙が始まっても、
一度しみがついたという事実は消えない。
おれがマジタナカだったということも
コメント
はじめまして、雨音陽炎と申します
全然知らない(記憶にない?)同窓会に出席するマジタナカ
登場する他の人物も、ひとりも知らないけど、確かにそこに存在している
だからマジ何某で間違いはなくて
全く知らない(記憶にない?)同窓会で
ミートソースがシャツについたこと
そこにいた人たちは本当で
締め方が好きですね
@雨音陽炎
雨音さん、こんにちは。ゼッケンです。
>ひとりも知らないけど、確かにそこに存在している
そうそれ。私がうまく言えなかった感じをちょうどいい具合に雨音さんに言ってもらえた。
自分が何者を演じていようと、存在自体は嘘ではない、っていう気分、
事実は記憶の有無に関係なく、事実である。虚構であっても存在したことは事実である。そんな感じです。