066

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ゆっくり上がって
ゆっくり下りる

破綻のない円を
描き続ける密室の中

あなたと向かい合った

あなたが指差す方向に
ひきつった笑顔を向けながら
まだ信じることが下手だったわたしは
掌に汗を握り締めていた

ゆっくり上がって
ゆっくり下りる

切なく情けない記憶が
なぜか蘇えったリビングの中

あなたと向かい合う

あなたが指差す方向に
何気なく視線を向けると
動かない窓の外の生垣で
見知らぬ野鳥が羽を休めていた

あなたがふんわりと微笑む

そうだった
その微笑みに救われて
わたしは人の暮らしを知ることができた
相変わらず信じることが上手くないが
掌に汗を握ることも少なくなった

ぼんやりしているわたしに
あなたが声をかけてくる
「なんでもないよ」と答えながら
もう一度窓の外に目をやるが
野鳥の姿はどこにも無かった

仕方なくマグカップに口をつける

今日のコーヒーは
少しだけほろ苦かった

投稿者

東京都

コメント

  1. *の上と下(と表現させてください。。)とで対比を感じられて、時の流れと観覧車の円とで。理屈ではわかっているのですが、観覧車の鉄骨の輪郭が重なるようなぶれるような、錯覚のようにもみえて(不思議な感じ)。記憶がよみがえる感覚とリンクしているような、と色々浮かんできます。

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