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ゆっくり上がって
ゆっくり下りる
破綻のない円を
描き続ける密室の中
あなたと向かい合った
あなたが指差す方向に
ひきつった笑顔を向けながら
まだ信じることが下手だったわたしは
掌に汗を握り締めていた
*
ゆっくり上がって
ゆっくり下りる
切なく情けない記憶が
なぜか蘇えったリビングの中
あなたと向かい合う
あなたが指差す方向に
何気なく視線を向けると
動かない窓の外の生垣で
見知らぬ野鳥が羽を休めていた
あなたがふんわりと微笑む
そうだった
その微笑みに救われて
わたしは人の暮らしを知ることができた
相変わらず信じることが上手くないが
掌に汗を握ることも少なくなった
ぼんやりしているわたしに
あなたが声をかけてくる
「なんでもないよ」と答えながら
もう一度窓の外に目をやるが
野鳥の姿はどこにも無かった
仕方なくマグカップに口をつける
今日のコーヒーは
少しだけほろ苦かった
コメント
*の上と下(と表現させてください。。)とで対比を感じられて、時の流れと観覧車の円とで。理屈ではわかっているのですが、観覧車の鉄骨の輪郭が重なるようなぶれるような、錯覚のようにもみえて(不思議な感じ)。記憶がよみがえる感覚とリンクしているような、と色々浮かんできます。