関係者
彼女がひとりぼっちで 部屋の片隅で電気もつけず膝を抱えて震えていたとき
ノーテンキなボクはいつものように テレビの前でゲラゲラ笑ってた
彼女が例の彼氏と別れたって 人づてに知ったときも
ボクは取り立てて気にするでもなく 日々バイトに明け暮れてた
それから彼女があまり外を出歩かなくなったと 彼女の友達から聞かされたときも
久しぶりに部屋を訪ねてみたら そこいら中にクスリと酒瓶が散らばってて
一体どれだけの量のクスリ飲んだのか
今にもぶっ倒れそうにふらふらと それでも笑う彼女
ボクにはカンケーないことだと何も見なかったことにして
女の子のいるお店行ってめちゃくちゃ酔って騒いだり
意味もなく朝方まで 声嗄らすまでカラオケで歌いまくったり
サイコーサイコー サイコーサイコー
彼女とボクと イカレてるのはどっちなんだってさ
くだらねえ くだらねえ
風の吹くがごとく 彼女の噂は絶えることがなかった
外に出歩けないことになってるはずの彼女が
夜の繁華街で知らない男の腕に抱かれてただの
何着もの高い服を買いあさっては
店を出るなり おもむろにバッグからハサミを取り出して
半狂乱になってズタズタに切り裂きまくってただの
突然泣き出したかと思えば また突然に奇声をあげて叫んだり
親切なお節介焼きが いかにも心配してます風でボクのところへ持ってくる
ボクにはどうすることもできないよと 一言半句も云おうものなら
最低のクズ野郎呼ばわりさ
まったく敵いやしないじゃないか
そんなに云うなら お前らがなんとかしてやれよって云えば
あたしたちだと彼女 気分を害するかもしれないでしょって
なんなんだよ その理屈は
彼女の心の中で何が起こっているのかなんて
ボクにも もちろん親切お節介にも理解できようはずがなかったし
仮に理解できたところで なにかができるとも思えなかった
某月某日
彼女は大量のクスリとウォッカを浴びるほどに飲み干して
新宿の高層ビルの屋上から 飛んだ
その数時間前まで ボクは彼女と電話でしゃべってたんだ
彼女の方から電話してくるなんてめずらしいなと思いながら
受話器越しの彼女の声は 落ち着いてるようにも
震えているようにも聞こえた いま考えてみればだけど
なに話してたっけな 大したことじゃなかったと思う
最近どうしてる? とか
彼女さんとは仲良くしてるの? 優しくしなきゃダメだよとか
自分も彼氏ほしいよなんてお道化てみせたりなんかしてさ
少しの沈黙のあと ふいに彼女
ねえ、今度どこか行かない? 彼女さんと三人で
ちょっと遠いけど ムーミンバレーパーク
あそこ行ってみたいな あたしムーミン大好きなのって
なんだか本当に行くのが楽しみみたいにそう云って
なのに なのにまさかこんなことになってしまうなんて
あの時彼女は なにか云おうとしてたんじゃないか
なにかしてほしいって思っていたんじゃないか
もっとちゃんと彼女の話に耳を傾けていれば
じゃあねなんて電話切ったりせずに
もっとずっとずっと くだらない話をし続けてれば
ボクが彼女に最後の後押しをしてしまったんだろうか
ムーミンバレーパーク行くの すごい楽しみだって云ってたのに
なに着ていこう おしゃれしていこう
沢山たっくさんグッズも買っちゃおうってあんなに
心も目に見えてわかるように作っておいてくれたらよかったのに
どんだけ傷ついていたって 血が吹き上げていたって
目に見えなきゃなにもわかんないし
気づいてやることさえできない
気がついた時には なんてさ
まったく なんて代物なんだよ心ってやつは
って 誰に言い訳してんだかって感じだよね
カンケ―ない カンケ―ない
ボクのせいなんかじゃない
ボクのせいなんかじゃきっと
ボクはたしかに
彼女の関係者でした
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最後までお読みいただき、ありがとうございます
よく何か事件が起きると
近所の住人とか友人知人なんかが
こぞって、「何か起きるような気がしていた」
なんて言い始めますが
そのたびに
知ってたんじゃん、気づいてたんじゃん
事が起きる前に、何かできなかったのかよ
と思ってしまうんですが
知らないふりをしていたなら
最後まで知らないふりを続けていてもらいたいものだ、なんて
毎度暑苦しいですね( ̄▽ ̄;)
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