夕焼
言うべき言葉が
遂に出せなかった唇に
毎朝 紅をさしている
また夏はめぐり暮れ行く空の夕焼をみる
陽が 沈みゆく所
あなたは真っすぐに誠意ある愛を求めて家庭を持ち
私は愛の方向を曲げて
自分に情熱をふきこんだ
あれ以後
あの人はあの人なりに
私は私なりに
既に心静か、あるがままで遠く愛して
それなのに
バッハの組曲に聴き入る自分が寂しくて
一人アイスコーヒーを飲み干すと
窓ぎわの席を立ち喫茶店を出て歩きはじめる
心から脱け出した空しさが
胸に納まるどころか
私が虚しさのふところへ入りこんでしまっていた
湖岸道路の、歩道の電線に
一羽の雀の影が重くはりついていて
もう何も見えはしない
なまぬるい夏の夜が始まるだけだ
コメント
かつて付き合った男のことを思いながら
ひとり喫茶店でアイスコーヒーを飲む女
家庭のある男だったのでしょうかね
きっと、奥さんとは別れるから
とかなんとか云ってずるずると関係を続けて
でも結局、男は家庭に戻っていってしまって
強がりな女は、別れを選んだことは間違いじゃなかったと
あっちはあっちで、こっちはこっちで
お互いにしあわせなのよ
それでいいじゃない、と
だけども、やっぱり
男にはちゃんと傍にいてくれる人がいるのに
女の傍には誰もいない
この淋しさ、虚しさは一体誰が気づいてくれるのか
纏わりつく夏の暑さの中
燃えるような夕焼けを見つめながら
女はひとり
誰も待っていない自分の部屋へ帰るのでしょうね
私も独り身なので、この詩は結構突き刺さってきました
個人的には、ラストの「なまぬるい」
ここ、もう少しへばりつくような不快な暑さを表現できそうな
違うフレーズのがよかった気もします(偉そうにごめんなさい)
相変わらず、女心を描くのが上手ですね
@雨音陽炎
さまへ
こんにちは。いやぁ……お寄せくださいましたコメントへ思わず読み入って
しまいましたァ。雨音陽炎さまのコメントは、他の方の作品でも拝読させて
いただいておりますが、潔さと良い意味での面白みもうかがえて好きです。^^
貴重なご感想と助言をいただき、嬉しいです。どうもありがとうございます!
この詩は、どこまでがノンフィクションなのかなぁ……?というきっと読み手
からすれば、脚色してあるだろう部分も感じられて。少しケレン味のある作品に
仕上がったのかな……と、書き手としては思っております。
自分の中の深層の自分が
無意識に口紅をぬりながら
記憶と今の間の詩間を彷徨っていて
何も見えなくなって行く
過去をすり減らし薄れて行くのか
今を遮り、深層に入るのか
@那津na2
様へ
お読みいただいて、ご感想のお言葉をお寄せくださりどうもありがとうございます!
この詩は、読み取っていただけましたように第一連目にインパクトがあり。第四連目の
最終行、
私が虚しさのふところへ入りこんでしまっていた
ここが、作品のfortissimo(フォルティッシモ)になっていて。最終連には、余韻が
残るかと思います。那津様に味わってもらえました事、とても嬉しいです。^^