指先で語られる人生悲話

別に中島みゆきを聴いてるからって
いつもいつも 暗いことばかり考えてるわけじゃないのよ
部屋の明かりを全部消して
膝を抱えて震えてばかりいるわけでもないの

別に精神を患っているからって
いつもいつも死にたがってるわけじゃないのよ
寝付けないまま迎えた朝には吐き気をおぼえるけれども
それでも毎日ちゃんとちゃんと 
定刻どおりに電車は私を乗せていくし
ちゃんとちゃんと 
日々を消化することくらいはできるのよ

忙しいことはいいことなのかもしれないわ
心を亡くすとはよく云ったものよね
余計なことは考えずに済むものね
生まれた意味や 生きていく確かな理由
自分の愚痴文句は散々垂れ流すくせに
私のことなんか一ミクロンも興味のない母親のこと
お金貸してもらいたい時だけ連絡してくる友人のこと
もうずっと昔に去っていってしまった人のこと
私を忘れていったたくさんの人たちのことや
私が忘れていったたくさんの人たちのこと
それに 重たい言葉ばかり吐き出してしまう
この出来損ないの詩人の指先のことも
忙しく働いているときだけは思い出さなくてもいいんだもの
おかげで最近の私はとても健康的なのよ

健康的な そう健康的なはずなのに

一日の終わり
街灯の合間を縫うように身を縮めて歩いていると
とたんに顔を出す不安定な自分

いつもいつも 死にたいなんて考えてるわけじゃないのよ
ただ 人との付き合い方や距離のとり方
この歳になるまで生きてればそれなりに解ってはきたけれど
いまだになんだか恐ろしいのよ 人というものが
いつどんな時にどんな状況の時に
突然キレだしたり口きいてくれなくなったり
なんだかものすごく軽く扱われたり
小さなことがいちいち気になってしまうのよ
そんなの気にしなきゃいいだろって
うん 解ってる 解ってるの
私だって できることならそうしたい

ねえ あなたから見て私ってどう見えてる?
私ってどんな人間?
子どもの頃から云われたわ
あんたは冷たい 優しくない 思いやりのかけらもないって
この先一体どんな目に遭わされるか解ったもんじゃないって
私ってそんなにひどい人間なのかな
私 気づかないうちにあなたに何かしてたりする?
昔から人を怒らせるのは得意だったから
多分何もしていないと思うんだけど
きっと そういうことじゃないのよね
私の存在そのものが 他人を苛つかせてしまうのよ
みんな私が悪いのよ 生まれたことが間違いだったのよ
母親だって思ったはずよ なんで妊娠なんかって
死んで産まれてくれればいいって
その証拠に 私が産まれたとき嬉しかったなんて
一切 聞いたことがないのだから

    オマエ ナンカ イラナイ
    ダレニモ ヒツヨウ ト ナンテ サレテイナイ
    イツマデ イキル キ デ イルンダイ

   
こんな自分 消えて失くなってしまえばいいのに
こんな自分 ズッタズタのメッタメタに切り刻んで
姿かたちも残らないように全部全部燃やして灰にして
地中深くにうずめてしまいたい
2度と陽の目を見ないように

私がうずまった土は あたたかいかしら
私を拒絶したりしないかしら
お前のせいで 草ひとつ生えてこねえじゃねえか
なんてね
まさか 地球にまで嫌われたりは
さすがにそこまでは 
ねえ

途方に暮れてふと顔を上げてみると
今にも落っこちそうな三日月が
冷たい闇の中でぶらぶら揺れていて
なんだかそれが深く強く
私の心を突き刺したの

自分誤魔化さないって決めたじゃない
思ってもないことは云わないって決めたじゃない
誰かが私を必要としてくれるかじゃなくて
私があなたを必要なんだって
私がただ あなたといたいだけなんだって
それだけ伝えることができたら それでよかったんだって
待ってるばかりの人生なんて金輪際もうやめだって
そう決めたじゃない

人は恐ろしいものなのよ
それはもう 嫌というほど味わってきたじゃない
いまさらビビったって もうしょうがないわよ
人にはそれぞれ心ってものがあるから
その心が何に反応してしまうかは
その人にしか解らない
だから なんでもかんでも自分のこと責めなくったっていいの

心はもともと不安定なものなのよ
何をされても 平常心でいられる人なんていないわ
もしそんな人がいたら その人は多分ぶっ壊れてる可能性大よ
ひどい目に遭わされたら痛いし傷つくし
大事な人を失ったら 淋しいし悲しい
心がツライ時って躰もツライでしょ
これ以上は無理だよって
これ以上は耐えられないよって
心が躰にサインを送ってるの
死なないために 生き続けていけるために

見上げれば漆黒の闇はどこまでも続いているし
人生もきっとそんなものなんじゃないかしら
何処まで続くかわからない闇の中を
月明かりのような青白い光をたよりに
辿っていくより他ないんだわきっと

過去はいつだって私を自由にしてくれないし
現実は容赦なく私を弄りつける

それでも
次に何が起こるかわからない世の中を
生きていくのも
悪くはない気がするわ

疲れた体を引きずるように部屋にたどり着くと
思いがけない人からの着信ありのメッセージ

「もしもし、元気にしてますか」

「もしもし、私は元気です」

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
最後までお読みいただき、ありがとうございます

誰もがあまり触れたくない、あまり外に晒したくないことから
描かずにいられないこの指先
それがものを描くものの悲しい性ってやつなのかもしれません
(みんながみんな、そうではないかもですが
少なくとも私は、という意味です)

投稿者

東京都

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。