てんとんて
●猫のひたいと呼べるほど小さな公園でひなたぼっこをしていると、草むらの中にテントウムシを発見した。ナミテントウだろうか、黒地に赤い紋が二つある。テントウムシは20cmほどの丈の草にしがみついて上に登っていこうとしている。ところが、爪楊枝ほどの太さもない草を登っていると、釣竿のように草がしなってしまう。天辺を目指したはずのテントウムシは天地が逆転したために、来た道を引き返す。すると、テントウムシの重さのなくなった草はまっすぐになる。戻ろうとしたテントウムシはターンして再び天辺を目指そうとする。しなる、もどる、しなる、もどる●
●テントウムシは飛び立つとき、自分のしがみついているものの天辺に登ってから飛ぶ習性がある。私は笑いながら、手にとって指の天辺に登らせてやろうかと思ったが、もうしばらくそのまま眺めることにした。しなる、もどるを繰り返していたテントウムシは何度目かの挑戦の途中で突如翅を広げ飛び立とうとした。けれどうまく飛び立てず、すぐ隣の草に落ちてしまった。周囲の草の中には、しがみついているものより丈夫そうな草もあるのだけれど、太い草に移ろうとする気配はない。あらたにしがみついた草もやはり、登りはじめるとしなってしまう。けれど今度は、しなる、もどるを繰り返さず、すぐに飛び立つ行動に移った。私は少し驚いたものの、テントウムシは、やはり上手く飛び立てず、そばの草に落ちた●
●三度目にしがみついた草は、先の二つの草よりも太さと長さのあるものだった。「これなら行けるかも」と、私はなおもテントウムシを観察した。今度の草はよさそうだ。登っている最中にしなることはない、と思っていたら、天辺にたどり着いた瞬間に大きくしなってしまった。長いぶんだけしなりも大きい。すると、草のしなりが戻ってくる瞬間にテントウムシが飛び立った。低空からの飛び立ちには変わりなかったものの、おそらくは草のしなりが後押しすることになったのだろう、今度は上手く飛び立てた~●
なんどもなんどもやる。疲れることはあってもへこたれない。人間のような脳機能をもたない昆虫は、自分のやるべきことを生まれながらに知っていて、その行為を為すためには同じことを何度でもくり返す。けれど、行為が為された後をふり返ることはない。
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