幻境

 
 或る古い影が一つ
 街頭に彷徨い出て騒音の中で
 狂い始めた

 一心に鎮めようと声をかけたけれど
 蜥蜴色で狂った影は、降る雨の
 空を跳ね 地をうがち
 私の声を一にぎりにつぶしてしまった

 何故だか
 私はかすかに微笑んでいた
 (これが分身なのか?)
 目をとじてみると
 美しかったのだった
 この野獣の様なわたしは
 何をもって生まれ出て来たのか

 目をとじてみれば
 心底優しい気持ちになって
 誰かに抱いてもらいたかった
 一人の時はこんなに素直なのに

 大きな雨傘をさす私に
 気付きもしない裸足の影は 
 降る雨のオトにひっさらわれて
 みえなくなった

 
 
 
 

投稿者

滋賀県

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