石が流れて木の葉が沈む(新釈ことわざ辞典その3)

悪事千里を走る
4千キロメートルもの距離をどうやって走っていくのかしらね
まさか自分の足でってことはないわよね
駅伝みたいに人から人へと襷リレーしながら走っていくのかしら
あるいは車でってこともありえるわね
悪事だけに盗んだ車で とか
ひとって悪いことするときだけ
どうしてあんなにも知恵が働くのかしらね
その知恵 もっと別のところに使ったらいいのにね
そんなこと云ってたら ほらまた
猛スピードで悪事が目の前を走り去っていったわ

祭りのあとの淋しさは なんていう
吉田拓郎の歌があったけれども
さっきまであんなに楽しかったのに
あんなに笑い合っていたのに
さよならも云わずに出ていった
あなたが出ていった部屋のドアを
いつまでもいつまでも見つめている
もしかしたら あなたが戻ってくるかもしれないから
もう一度あのドアを開けてくれるかもしれないから
僕はあなたが何か忘れていったんじゃないかと
うろうろと いそいそと
部屋のあちこちを探し回る

青菜に塩かけたみたいにぐったりとうなだれているあなた
追い打ちをかけるように傷口に塩を擦り付ける人たち
いまはそっとしておいてあげてほしいのに
いまだけは責めないであげてほしいのに
いつかもう一度 自分で立ち上がるその時まで
ただ見守っててあげてほしいだけなのに

自分の頭の上の蝿も追えないなんてっていうけど
蝿を追いかけている人を一度でも見たことがあるかしら
ブンブンとうるさくて鬱陶しい蝿
そんなの 早く追い出してしまえばいいだけじゃない
蠅なんかよりもっと追わなきゃいけない問題が
きっとあなたの中にあるはずよ
どう? 思い当たるふしがあるでしょう

牛を馬に乗り換えるように
いいとこまわりばかりしている
よく云えば世渡り上手
悪く云えばずるがしこい
調子がよくておしゃべりで
あっちでもこっちでもいい顏して
そういう人間ほど なぜかひとに嫌われない
馬の次は果たして一体
何に換えるのかしらね

私がしゃべり下手なのは
奥歯に物が挟まってなかなか取れないからです
というのは真っ赤な嘘です

鬼が笑うというけれど
鬼だって笑いたいときくらいあるでしょうに
いつも金棒もって厳つい顔ばっかりもしてはいられないわ
それに鬼が念仏を唱えることがあったっていいじゃない
鬼には鬼の 云うに云えない事情ってものがあるのよきっと
でも考えてみればかわいそうな生き物よね 鬼って
厳つい顏していれば 何かされるんじゃないかと怖がられるし
神妙な顔をしてみせれば 何か企んでるんじゃないかと疑われ
殊勝に振る舞えば 今度は何か裏があるんじゃないかと
あらぬ疑いをかけられる
そりゃ 念仏のひとつも唱えたくなるのも
頷けない話では決してないって
なんだかちょっと 鬼に同情さえしてしまいそうよ

あばたもえくぼ 恋は盲目
たとえ付き合いだした途端に仕事を辞めてしまっても
息が詰まるほど束縛するようになっても
顔が変形するほど 肋骨にヒビが入るほど暴力をふるわれても
そのあとで決まって泣きながら
愛してるんだ ごめんよと縋ってくる男に
こんなに苦しんでいる彼を
理解してあげられないあたしの方が悪いんだと
もっと愛してあげなければ
もっと支えてあげなければ
この人はきっとダメになってしまう
殴られたこともケガをさせられたことも
すべては愛なのだと 勝手に自動変換
何も見えない 何も見えていない
ちゃんと目は見えているはずなのに
あばたは所詮はあばたでしかないのにね
ホント 恋は恐ろしい

あさりやはまぐりはいいわ
だっていつもふたつピッタリくっついて離れない
両想いのふたりなんですもの
アタシなんてひとり岩場にしがみついて
打ち寄せる波を体に浴びながら
恋しいあのお方のことばかり考えているのよ
多分あの方は アタシがひそかに慕い続けていることさえ知らない
え? 気持ちを伝えたらどうかって?
イヤよそんなの
もしもキライって云われたら 
とてもじゃないけどアタシ 生きていけそうにない
いいのよ いいの
こうしてあの方を想いつづけているだけで
一生片恋だとしても 強がりとかじゃなく
ホントにアタシ それだけで幸福なの

会うは別れの始めというけれど
こんな日がきてしまうことは 最初からわかっていました
お互い意地の張り合いみたいなことはいい加減なしに致しましょう
どれだけ同じ時間を過ごしても
どれだけ言葉を尽くして語り合っても
結局解ったことと云えば
あなたは私を 私はあなたを
なにひとつ理解できなかったということだけでした
お別れいたしましょう
悲しいことなど何もありません
だってこれは必然的なことなのですから
あなたのメモリはすべて
今日を限りに削除いたします
これですべて終わりにできます

さようなら
さようなら

元気でねなんて云わないわ

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最後までお読みいただき、ありがとうございます
またも懲りずにことわざに物申す第3弾
物申すというか、ことわざを素に脚色した感じに近いかも(^^)

詩とは関係ないのですが
先日観た昔のドラマ、奇跡の人(岡田恵和脚本)の中で
「両想いってのは、片想いしなきゃなれねえだろ!」って台詞があり
すごい素敵でいい台詞だったので
ここにそっと記させてくださいませ(#^.^#)

ありがとうございました

投稿者

東京都

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