揺

「あんなに傾いているのに倒れないのね」
「なにが?」
「あの、塔のこと」
「傾いてなんていないよ」
――ゆりかご――
「傾いてるじゃない」
「そばに行けば真っ直ぐだってことがわかるよ」
――ゆりかご――
「傾いてるのは私たちってこと?」
「地球は丸いってこと」

「あれはなに?」
「ゆれぬかごだね」
「ゆれぬかご?」
「左右にゆれていたらゆりかごだけど、あれは中身がいなくなったようだからね」
「中には何が入っていたの?」
「さて誰だろう? おまえやわたしも入っていたのだよ」
「そんなの覚えてないよ」
「忘れる頃に中から出てくるものなのさ」

滅び去った世界に、動くことのない揺り籠がある。
「なるほど、でも見方を変えるとどうなるだろう?」
あたたかな羊水の中にいる、やがて揺れる存在。
「なら、あの黒い丸はなに?」
出口

絵:NEKO https://x.com/C18No3

投稿者

大阪府

コメント

  1. 面白いです。いろいろと考え込んでしまいました。

  2. @佐藤宏
    コメントありがとう! ゆらゆら考えましょう。

  3. 1、2、3が、それぞれ独立していて、それでいて3つで一つみたいな構成に感動の驚きを感じます。^^

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