進行方向

 日曜日の夕方
 乗り込む車輌の冷房で一息つく
 連れ合う二人と座ったJRの優先座席

 たまたま 私は先に居る女と真向かった
 進行方向とは逆の、窓ぎわで
 外を見るでもない
 その目の周りに赤紫の炎症がある

 低い位置で束ねたブラシも入れていない髪
 丸襟の弛んだTシャツの腕にも
 打撲傷がある
 くたびれたジャージを履く膝に
 色褪せた黒の大きなリュックをのせて
 足元には薄汚れている嵩張った布製のバック

 下を向いたり
 どこへとも無く視線を泳がせる女は
 広い肩幅の小太りな躯で抱え込む荷物以上の
 重量に耐えている様
 そして走行中に席を立ち
 混んだ車列の隅っこへ移動すると停車を待って
 開く扉へ慌てて向かう

 その足で、改札を抜ける空にも 
 まだ 輪郭をとどめているだろう
 さっき私に見えていた灰桜のうろこ雲が————、 
 彼女の目に
 映らないかもしれないけれど

 
 
 

投稿者

滋賀県

コメント

  1. その女性、家に帰ったらやばいかもしれません。DVの夫が待っているかも。子どもに暴力をふられているのかも。
    たまたま乗り合わせただけの、見ず知らずの赤の他人のその姿を目の当たりにしたとき、女性はなにを思いなにを感じたのでしょう

    ちょっと中島みゆきのファイト!を思い出しました
    駅の階段で子どもを突き飛ばした女を目撃しながら、助けることも叫ぶこともしなかったわたし
    この曲でみゆきは、私の敵はわたし、と歌ってます

    ふっと思い出してしまいました

  2. @雨音陽炎
        さまへ

     読んでいただいてコメントをありがとうございます!
     最終連が、最初

       その足で、早く
       ゆっくり眠れる場所へ行き着いて欲しい
       
     と、綴っていたのですが改稿しました。中島みゆきさんの「ファイト!」は、
     あれは……すごい歌だなと思います。
     この詩は、心に残った女性のすがたをありのまま描写してみることで、
     実際にはさまざまな事を想いながらも。其処に空気の様なヒトである自分の
     在り様をみつめてみました。最終連が、思うように書けないままですけれども。

  3. 最終連の灰桜のうろこ雲が印象に残りました。敢えて作者の思いを書かず、灰桜のうろこ雲の風景を描くことで、もやもやと湧き起こる心配や、すっきり表現しきれない思いを表しているのかな、と思いました。リアルでありのままの女性の存在が心に残る詩でした。

  4. @ayami
       さま

     どうもありがとうございます!読んでくださってコメントを、お寄せいただき
    とっても嬉しいです!╰(*´︶`*)╯♡
     こっちのサイトの返信が遅くなってしまいました。m(_ _)m
     最終連を丁寧に読み取って貰えましたこと、大変有り難く思っています。

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