タイタンの卍
土星の衛星タイタンの海、
時空間跳躍施設のあるプンガの島々に
量子駆動によって遥々と運ばれた 卍 、
コンテナの中身はサルデーニャ島産のチーズ
生きた蛆虫の湧いた、カース・マルツゥだった
地球では、AVIREX の N-3B が風に震えている
凍った木箱に入ったファーバーカステルの
美しい120色水彩色鉛筆が1本、また1本と零れ落ち、
今は亡き、アーサー・C・クラークの想いとともに
海の思考が創る儚い故郷へ向かって落ちていく
やがて清家(※)の理論は時間旅行にも応用され、
アンフィの花柄のブラショーツセットは雑踏を彷徨う
卍 と 卍、すなわち
強欲な 卍 のなかの 卍 と 卍
赤い 卍 と、緑の 卍 が、地平線の向こうへと回り込み、
邪なモーラナイフは、長い影の中で待ち続ける
今しも立体映像の貴景勝が、
赤錆びた戦艦ポチョムキンの甲板に立ち、
歌舞伎の義経千本桜三段目、
つるべすし弥助の鮨桶のどれかひとつのように
「うみのほね」は私の愛と誠だった
うーん、紀州南高梅の梅干しが酸っぱい!
遠く過ぎ去ったヤマザキ春のパン祭り
蝉の声の途切れた、ありふれた夏の終わりに
アンフィのブラショーツセットが再び虚空を舞う
いつしか、土星の衛星タイタンの島々に
量子駆動によって遥々と運ばれた 卍 、
コンテナの中身はサルデーニャ島のチーズ
生きた蛆虫の湧いた、カース・マルツゥだった
欠片を齧ると、舌の上で元気な虫たちが踊った
※清家新一(1936-2009) 量子駆動、超相対性理論の提唱者
コメント
言葉の素材たちが生き生きと躍動し想像を膨らませる。タイタンという地名と飄々とした語り口からはACクラークよりむしろカート・ヴォネガットを思い出しました。「海の思考が創る、儚い故郷」からはスタニスワフ・レムも。「カース・マルツゥ」勉強になりました。
おお! やはり「海の思考が創る、儚い故郷」からソラリスの海って思い浮かびましたか、、
この作品は、指定された殆ど繋がりのないことばを使って詩を作るゲームみたいな方法で書きました。
これは100年以上も前の絵画におけるシュールレアリスムの技法です。
自分で言うのもなんですが、意味不明でありながらもけっこう読める文章になりますね、、 笑