貝合わせ

大理石の石床に展示してある
外車オープンカーを横目に
午前三時前のロビーを抜けて
タクシーが待つ庭先へ出た

「また連絡してもいい?」
車の後部座席にいつもバスケットボールを乗せていると
教えてくれた男
ツインベット宮に組み込まれたナイトパネルの
デジタルウォッチを確かめる彼は
枕元のポーチから長財布を取り出し
私へ微笑みかけて身を起こす

ルージュを引き終えた唇の端で笑って
なんて しんとしている心
「そうね」

 そうね、例えば
 色づき始めた銀杏の林の夕暮れで
 さまよってもさまよっても
 陽が沈み切らないのを感じた時の様な
 奇妙におそろしくて
 其処に居るのがめんどうになっているのに
 逃げ切れない
 背筋を硬らせて
 めんどうだ と思いつづけている
そんな時なら———
連絡をくれれば逢ってもいいわ

そんな時に、わたしたちの蛤の内側にまだ
似通った絵が描かれていたなら
コバルトブルーのオープンカーがある
このホテルで あいましょう

投稿者

滋賀県

コメント

  1. 四連目の逢ってもいい喩えに思わず笑ってしまいました。いや、喩えに関する記述が必要以上に詳細でよく分かる喩えだったので。ここがこの作品のメインですよね。

  2. @たかぼ
        様へ

     お読みいただいてコメントをくださり嬉しいです!どうもありがとうございます。
     たかぼ様のご感想のお言葉通りで、第四連目が作品のメインであります。^^
     この詩は、「私」の存在もミステリアスで、男の方も年齢層が分かりません。
     けれども「バスケットボール」がフックになって、お読みくださった方には、
     どんな風にも連想していただける面白みがあるのかなぁ……と思います。
     詩友の感想では、短調のシティーポップみたいだとも言われました。
     最初に原稿を公開してみると、いまひとつ納得いかずチョコチョコ手直して
     加筆しました。
     

コメントするためには、 ログイン してください。