群

赤い雲みたいなのはオキアミの群れ。いわゆるプランクトンは、海の栄養物としてほとんどは誰かに食われる。
(写真は映画『Unsere Ozeane』より)


群れ群れするには仲間がいる。
ムラムラするには女がいる。
無理無理だって、そんなんできっこないじゃん。
ムルムルするには貝がいりそうです。
室室だったら別の部屋かしら?
ああ、もじもじしてしまう。
おお、ねむれぬ夜がくる。

欲が固まっている。
ほどくべきか、とかすべきか、
整然と列に並ぶ欲。
棚にきっちりと並べられた欲。
「その欲とって」
ちょっとだけ振りかけられる欲。
じっとしている欲。
やたらと動き回る欲。
群れからはぐれた欲。
欲にまみれる。
欲にみまわれる。
望みはどこだ?

空に魚の群れが泳いでいたら
いいね
ぱくりといっぺんでOKだ

それじゃ湖にざんぶと突っ込んで
魚をすくいとる楽しみが
なくなるじゃないの

下のくちばしに大きな袋がついているのは
おれたちが魚をとるのが下手だから
じゃないよね

そう 神様のおぼし召しなの
だから
誇りに思わなくちゃ
(『ワンダフルライフ 地球の詩』飛鳥童(絵)・川崎洋(詩)小学館)

 つねに無常なるもの、
つねに変化し、崩落し、ふたたび凝集する物質が、
つねにアトリエ、神聖な工場が、
 まぼろしの群れを次から次へと送り出す。
(ウォルト・ホイットマン「まぼろし」酒本雅之訳)


全体(パソコン画面上に見られる文字群)を見て、そこから自分が気になった文字列だけを抜き出してみる。あまり深く考えずに、漠然と見ている言葉の群れから、自分が気になったものだけを抜いていく。そして、抜き出された言葉から作品を改めて作ってみる。

この国の大きさは、もしも市民の精神が、それに匹敵するだけの大きさと寛やかさを持たなければ、ただのこけおどしにすぎないだろう。群れをなす多くの州も、街並みも汽船も、実業の繁栄も、農地も、資本も、学問も、人間の理想にとっては充分でなく――詩人を満足させることも無理だろう。
(ウォルト・ホイットマン『草の葉』酒本雅之訳)

いいですか、愚か者たちはそろって人間性とやらを持ち出すし、弱虫たちは正義をかつぐ、どちらも、ごちゃごちゃにするのが得だからですよ。なんとも躾のわるいこの「正義派」の群れと、そいつらの秤は避けようではないか。われわれを自分の同類にしようと思っている連中はなぐりつけよう。人間のあいだには、論理か戦争か、このふたつの関係しかない。これを覚えていさえすれば、それでいい。つねに証拠を求めたまえ、証拠こそはひとがたがいに示すべき基本的な礼儀なのだ。もし相手が断ってきたら、覚えておきたまえ、きみは攻撃される、あらゆる方法によって服従させられることになる。きみは何だってかまわない何かの魅力や快適さの虜になり、だれだか他人の情熱にのぼせることになる。思いをこらしたこともないし、深く吟味してみたこともないことがらを考えさせられることになる。きみは感動し、うっとりとして、眼がくらむだろう。だれかがきみを目当てにでっちあげた前提からいろいろな結果を引きだすだろう。で、きみはいくらか天才的に、考えだすのだ、――どれもこれもきみが暗記していることばかりをね」
 ――「いちばんむずかしいのは、何があるのかを見ることなんですね」わたしは溜め息をついた。
 ――「そのとおり」と、ムッシュー・テストが言った。
(ポール・ヴァレリー『ムッシュー・テスト』清水徹訳 岩波文庫)

同情で群れ成して、否で通す(ありゃ、マズイよなあ)。
難解な、その語意に、奴ら宿る。…んで、どう?
(中村一義「犬と猫」より)

「天気のように変わりやすい」友情でね。功利のために選ばれた友人は、利益になるあいだだけの関係にすぎない。だから、成功者のまわりには友人の群れがとり囲むが、没落した者のまわりは孤独が支配している。
(『セネカ 現代人への手紙』中野孝次 岩波書店)

そのひとは もう日光の媚びにも心を和らげず、
おのが美しさのつづくかぎりは歎きを漏らさぬ
夏の鳥のようにかるがると蘆をこえて
ある日われわれの群れを捨てたのだ。
(『ゲオルゲ詩集』手塚富雄訳)

言わないだけじゃなくて(選択)行為もしなくなったサイレント・マジョリティーが国民の半数以上になってしまったということ。こういった群れは、どこに向かうのだろう?

うつろな心からどうやって歓びを紡ぎ出すのか。
歓びの卵は絶望のさなかに育つもの。

暗黒のオルガズムは世界を痙攣させ、
 歓びを追求する者たちが群れひしめく。
(エリカ・ジョング『聖約(またはウォルト・ホイットマン讃歌)』青山みゆき訳)

あんたたちはしょっちゅうお祈りをしているの?
あんたたちは傷ついた星の群れなの?
だって、流しているのは光線ではなくて
光の涙なんだもの。

あんたたちは、創造物と神々との
先祖である星の群れなのに
目に涙をためているんだもの」
すると星たちが私にいった。「私たちは孤独なの

一人一人がとても遠く離れているの、
あなたが近所だと思った姉妹たちは
その輝きは愛撫のようにこまやかでも
めいめいの国では誰も見ている人がいないの。

また、その胸の中の炎の熱も
無関心な天空に息絶えてしまうのよ」
そこで私は星たちに言った。「なるほどね!
あんたたちは魂に似ているのだね

それで一人一人がすぐそばのようにみえていても
姉妹から遠くにめいめいに光っているんだね
そして不滅の孤独者となって
だまって夜の中で燃えているんだね」
(シュリィ・プリュドム「天の川」川崎竹一訳『ノーベル文学全集23』主婦の友社)

とうとう、頭の中を物の姿でいっぱいにして家にもどると、部屋のあかりを消す。そして、寝つくまえの長いあいだ、手に入れた姿をひとつひとつ数えて楽しんでいる。
 物の姿は、思い出すままに、素直によみがえってくる。ひとつひとつがほかの姿を呼びさまし、燐のように光るこうした姿の群れは、ひっきりなしに新手を加えてふえてゆく。
(ジュール・ルナール『博物誌』辻昶訳 岩波文庫)

個性個性って、
なら俺たちと逆の方向へ行けば目出つはずだよ、
すぐに牙持つやつらに襲われるだろうけど、
没個性没個性って、
なら群れ中のメスをすべて口説き落としてみなよ、
お前が受け入れられるのかどうかを、

われらは大地と同じく
生殖の力を失ってはいない
わたしは生命をきみの体に注ぐことができる
頭にはや白髪が群れを成していようと
まだ老いてはいない
石くれになりはてるほど老いてはいない
まだきみにこう言える
闇におのれを包みこんではならぬ
昏々と寝入ってはならぬ
わたしが求めるのはきみの乳を飲むことではなく
きみの愛をたっぷりと吸うこと
そして陶酔の身をゆらめかせ
きみの明かるく光る肌の上にたゆたうこと
(芒克【マンク】『時間のない時間』是永駿訳 書肆山田)

人生はなにもかも面白いわ、クレムの性交渉の観念、『快楽』の概念と『牛の群れの規模を増大する』という概念をごっちゃにする西部男の混同を覗けば。
(ドナルド・バーセルミ『雪白姫』柳瀬尚紀訳 白水社)

「(前略)――これは詩なのよ。あなたはヘヴンズ・ゲートや〈カリブーの群れ〉について書いているけれど、それが伝えようとしているのは、孤独感、疎外感、不安、人類に対する皮肉な視点などでしょう」
「だから?」
「だから、他人の不安を読まされるために、お金を払う人間なんていないということよ」
(ダン・シモンズ『ハイペリオン』酒井昭伸訳 早川書房)

 あの群れのなかで新しい秘密がひらけていく。貝のそば、ガラテアの足もとに炎が立った。燃え立った。つぎにはちいさくゆれて愛の脈動を撫でるようだ。

 なんという不思議。波が砕けたのか。燦然と輝いて天に映える。夜の海を照らし、すべてが火につつまれる。すべてのはじまりのエロスのなすがまま!
(ゲーテ『ファウスト 第二部』池内紀訳 集英社)

群れという集合体は社会を作り出す。
その群れの中にいるひとりびとりが、
より大きなひとりを動かすための力となる社会、
というか生き方はすでに在る。

わたしたちは本のページの上で、また、流木の焚火の傍で出会う。
わたしたちは幾重にも折り畳んだ手紙の中で
 黒く走り書きされて出会う。
わたしたちは自由で寛大な手によっておたがいを知る。
おたがいの魂に乗って蜘蛛のように揺れる。
(エリカ・ジョング『聖約(またはウォルト・ホイットマン讃歌)』青山みゆき訳)

投稿者

大阪府

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