秋雷

 十四歳だった私は
 真白な龍の、眠る淵があることを
 知っていた

 京都北部の山間地を行くメロディーバスが
 峠を越えてカーブへ差し掛かる
 後部窓ぎわの席で、わずかの間
 立ち上がって覗きこんだ景観
 山はだを覆う紅葉の艶やかさに
 谷底の岩場はいっそう暗く
 渓流の縁に織りあげられた暖色の帯と
 車中で耳にする雷鳴

 美しい龍は私の
 鋭く尖ってざわめいて
 無垢な翼を持った時代の想いで

 やがて冬の到来で
 この錦繍の龍が、雪雲を呼び
 そして春の嵐の日 
 高く遠くはい昇っていったに違いない
 と 今でもおもっているのだ

 

投稿者

滋賀県

コメント

  1. そうか、龍は居るんですね。そう言われれば、居る、というか在るのだと思える。うん。

    と 今でもおもっているのだ
    というところも すてきです。

  2. @こしごえ
        様へ

     読んでくださって、ご感想のお言葉を寄せていただき嬉しいです。(*^^*)
     どうもありがとうございます!
     この作品は、最初散文で書いてみた長い原稿を詩へ転換したのです。
     あらゆる表現を削ぎ落として、骨格だけが残りました。ここには詩、
     でしか伝えられないストーリー性があるのだと思えるのです。

  3. 龍というのがなんなのか考えてました
    14歳という年齢から想像して、思春期に突入していく頃のことだろうと

    初潮のことかな?とか、でもそれだとちょっと遅いか、とか
    初めての恋の、初々しい想いのことかな?とか

    いずれにしても、龍とは想像上の生き物とされているもので
    だとすると、創作を始めた頃の、所謂初期衝動ってものなのかな?とか

    まだあどけない少女の頃の、甘酸っぱいような
    傷つきやすくて繊細で、蕩けるような
    そんな純真無垢な気持ちのことかな?とか

  4. @雨音陽炎
         さまへ

     たわいない思い出話しですが、聞いていただけますか?……^^
     私は13歳で心因性脱毛症を患い、頭髪だけでなく眉毛もまつ毛も失いました。
     治療の為、養護学校へ転入し14歳で京都の僻地の中学校へ転校。親元離れて
     山里の教員住宅で下宿生活を送りました。
     中学二年生の教室には男子が5人しかいませんでした。街からやって来た禿げた
     女の子は、毎日いじめられました。他の学年の女子と仲良くすると
     「ブスがうつるからやめろ!」「おまえみたいなブスは街へ帰れ!」「ブス」と
     言われなかった日はありませんでした。男子への憎しみや嫌悪感が募っていきました。
     山里で初めて迎えた秋は、美しかったです。村の子達には見慣れた風景だから、
     誰にも感動を伝えることが出来ませんでした。何故、あの日……私は龍をみたのでしょう。14歳だった少女の胸に宿っていた純潔な、もの想いが投影されたのかも知れません。激しくて荒々しい、やるせ無さや寂しさだったのかも知れません。……笑

  5. @リリー
    さんへ

    そうだったんですね。。。
    大人だって容姿についてバカにされたりすれば傷つくのに
    ましてや13歳という多感な時期に
    女の子にとってとても大事な髪の毛や眉毛まつ毛のことで
    いじめを受けていただなんて
    私が軽々しく云ってはいけないかもしれませんが
    本当にツラかったと思います
    家族もなく、たったひとりで抱え込むには
    とても大きく、重たいものだったと
    私も、決して容姿がいいとは云えない見た目でしたし
    頭もひとより大きかったために
    教師たちからも、弄られてはみんなの笑いものによくさせられていたので

    私の勝手な想像なのですが
    きっと、リリーさんが見た龍は
    どんなに他人から見た目をバカにされても
    決して誰にも穢すことのできない
    リリーさんの心の目が見せてくれたものなのではないかな、と

    そしていつかきっと
    何かの形(詩ですね)でそのときの想いが昇華できるように
    という、龍からの御守りのような祈りだったんじゃないかな

    そんなふうに思いました

    ツライ思い出を話してくださり
    ありがとうございました

  6. 詩を拝読しまして、私の中にも鮮やかな山の紅葉を背景に、真っ白い龍が目に浮かんできました、リリーさんの14歳の思い出とともに。
    子どもの頃、そういえば何気ない景色の中に、何かが宿っているような気配を感じたり、ドキドキしたり、していたなあと、ふと懐かしく思い出しました。

  7. @雨音陽炎
        さまへ

     ご返信、どうもありがとうございます!嬉しく拝見いたしました。
     ご自身のこともお話しくださり、私にも共鳴できるものを感じることが
     出来ました。
     そうですね……笑、男の子達にいじめられながら泣きもせず、ひたすら無視!
     を貫いた女の子は、ますます可愛く無いツッパリになっていきました。
     美しい山村での暮らしが、新鮮な驚きや好奇心に満ち溢れていたから、
     いじけずにいられたのだと思っています。(^^)

  8. @ayami
       さまへ

     読んでいただいてコメントをくださり嬉しいです。どうもありがとうございます!
     久しぶりに投稿されました御作から、ayamiさまの澄んだ詩心が伝わってくるようで
     した。^ ^ ayamiさまの詩にはいつも、一筋の柔らかな閃光が胸に差しこんでくる様な
     印象を受けるのです。
     この作品では、情景描写へ注目してもらえて良かったなぁ!と思っています。笑ゞ
     第二連目に自分で納得出来るまで、一年以上原稿は寝かせました。

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