あの子

 先週なら半袖でいられたのに
 急に風が冷たくなって
 靴下も履いていないあの子は、
 三ヶ月くらいだろう

 膝でリズムを取るまだ若い男のゆりかごで 
 ぷらんぷらん
 あの子のあんよ
 男へ伸ばそうとしている白いお手てが届かずに
 抱っこ紐のベルトへ触れる

 大きなマスクと眼鏡の目線がスマホにしかない男の顔を
 あの子はずっと見上げてる
 また小さな手と素足を伸ばして男へ触れようと
 さっきから、話しかけているじゃないか
 とうとう
 「あーッ!」
 ホームに響く甲高い一声

 急ぎスマホをジーパンの尻ポケットへしまって
 私の居るホームへ背を向ける男
 今度はあの子の顔を見て
 膝でリズム取りながら歩いてみる

 いつもなら見掛けない若い男は元居た位置へ戻った

 大きなリュックを背負い荷の嵩張る手提げ袋まで持って
 二人が待つJRの電車は、午前七時四十二分発の大阪方面神戸行き
 プラットフォームのアナウンスでは
 今朝に限って五分遅れている

投稿者

滋賀県

コメント

  1. 光景がありありと目に浮かぶような、臨場感あふれる詩を、楽しく読ませて頂きました^ ^
    スマホを見て我が子のメッセージに気づかない父親が、我が子の甲高い声ではっとし、変化する様が、微笑ましく明るい方向に詩を変えていき、男性や風景の描写だけに止めることで、より読者の心情を浮き彫りになる感じがいいなあと思いました。

  2. @ayami
       さまへ

     読んでいただいてコメントをくださり嬉しいです!どうもありがとうございます。
    (*´︶`*)/これは、通勤途中にメモノートを取り出してペンスケッチした作品なのです。
    とても心地よく書きとめることが出来ました。
     私は、あの大きなリュックや嵩張る手提げ袋を持って「あの子」を抱いている
    「若い男」の風体に、いろんなことを連想したのです。
     「親子?……なのかなぁ」もしかしたら叔父かもしれない。何か事情があって預かって
    いたお姉さん家の子供なのかも?……とか。いっぱい想像しながら「二人」を見ていました。あるいは、親子かもしれない。いつもなら見掛けない今朝の、あの二人に……どんな背景があるのかなぁ。そんな想いあって…ラストを叙事で、締めました。^^

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