夏は
茶色く疲れ果てた蔓の途中で 朝顔の紅は
夏の追憶の中に留まろうと もがいている
枯れ急ぐ葉に抗う 小さくなった花は
冷えた朝露に濡れて うなだれる
永遠への憧れは たそがれて切なく
胸の底に沈んで 上澄みはうす青い
高く遠くなった空は 広すぎて無関心に
風を吹き降ろす 枯葉を転がす 空蝉がしがみついたまま
陽の光は力なく乾いて
二度と戻らない季節を撫でる
輪廻は求心力を拒んで 螺旋を描き始めた
白っぽく干上がった ヒガンバナが
芽を出すこともない実をつけて 揺れている
朝露はとうに消えてなくなった 昼下がり
コメント
色彩、空間の捉え方、時間の推移、そういったもの全部を巧みに散りばめて、過ぎゆく夏の儚さみたいなものが生まれているように思います。
出だしから一年草のせいいっぱいの営みが浮かぶ。特に朝顔は夏の顔。
”枯れ急ぐ葉に抗う、二度と戻らない季節を撫でる、輪廻は求心力を拒んで 螺旋を描き始めた、朝露はとうに消えてなくなった”
初夏の一瞬の切り取って、儚さそしてその連なりの強さまでを思わせる。
ヒガンバナは初夏にいったん枯れまた秋に花を出す。毎年の繰り返しだけど、二度と同じ季節じゃないんだな。
美しい言葉の調べにやられました。これぞ詩ですね。
終わっていく夏の物悲しい感じが胸にきりきり入ってきました。とても綺麗。