夏は

茶色く疲れ果てた蔓の途中で 朝顔の紅は
夏の追憶の中に留まろうと もがいている
枯れ急ぐ葉に抗う 小さくなった花は
冷えた朝露に濡れて うなだれる

永遠への憧れは たそがれて切なく
胸の底に沈んで 上澄みはうす青い
高く遠くなった空は 広すぎて無関心に
風を吹き降ろす 枯葉を転がす 空蝉がしがみついたまま

陽の光は力なく乾いて 
二度と戻らない季節を撫でる
輪廻は求心力を拒んで 螺旋を描き始めた

白っぽく干上がった ヒガンバナが
芽を出すこともない実をつけて 揺れている
朝露はとうに消えてなくなった 昼下がり

投稿者

奈良県

コメント

  1. 色彩、空間の捉え方、時間の推移、そういったもの全部を巧みに散りばめて、過ぎゆく夏の儚さみたいなものが生まれているように思います。

  2. 出だしから一年草のせいいっぱいの営みが浮かぶ。特に朝顔は夏の顔。
    ”枯れ急ぐ葉に抗う、二度と戻らない季節を撫でる、輪廻は求心力を拒んで 螺旋を描き始めた、朝露はとうに消えてなくなった”
    初夏の一瞬の切り取って、儚さそしてその連なりの強さまでを思わせる。
    ヒガンバナは初夏にいったん枯れまた秋に花を出す。毎年の繰り返しだけど、二度と同じ季節じゃないんだな。

  3. 美しい言葉の調べにやられました。これぞ詩ですね。

  4. 終わっていく夏の物悲しい感じが胸にきりきり入ってきました。とても綺麗。

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