お手伝い券
そして、宅配のお届け済み通知が届いた。
実は捨てていないんだ。
キミだってそう見たいモノでもなければ、
大事に取っておくモノでもないだろ?
キミの部屋が悪臭を放ち、
足の踏み場もなきモノだらけのジャングルジムになってしまった。
この家に住み始めた頃よりそれは酷く、これじゃボクの荷物を置く場所なんて端っからないワケさ。
洋服も、本も、レコードも、
キミのモノだらけ。
キミが長めの休暇を貰えることを教えてくれたあの日、ボクはついに片付けを定案する。
キミの前のパートナーの荷物も、
キミの前の前のパートナーの荷物も、
押し入れから、天袋から、
出てくる出てくる「ゴミ」の山。
母親も死に、父親も死に、
兄妹達も独立し、
部屋が空いたから、
ボクはまだ其処に暮らす術を得ている。
1番可哀想なのは、
キミの前のパートナーだろうね。
ダンボールだらけの押し入れの一角しか与えて貰えず、
キミの前の前のパートナーが身につけていたシミで汚れた肌着までもが押し込まれたままになっていた。
不憫ヤナ、ソンナニ哀レム暇ハナク。
粗大ゴミ処理場までの往復7回分の家具や寝具や壊れた家電、
10冊ひと束くくりで約100束の本も、
45リットルゴミ袋27枚分の洋服もゴミの日に分けて、分けて、分けて、
やっと片付く頃
本の紐がけも出来ずにいたキミがせっせと束ねて運んでいたね。
『 ねえ、これどうしたらいい? 』
キミの前の前のパートナーの、
卒業アルバムや成人式の晴れ着姿、極めつけには生まれた頃の母親に抱かれたアルバムまでもが持ち出す事も出来ずにこの部屋に飲み込まれていた。
キミは住所も連絡先も知らないと言う。
ボクが知っているのは、
キミとの会話でたまに出てくる、
その人と、大人になった子供達の ” 特殊な名前 ” だけ。
あぁ、そうさ。
調べたさ。
キミの前の前のパートナーの子供の1人が経営しているサロン。
ボクがね、
そこにね、
一筆添えて厳重に梱包して、送っておいたよ。
その子が幼い頃キミに宛てた期限記載のなき 「 お手伝い券 」と一緒にね。
ごちゃごちゃしたキミの引き出しの中から見つけたんだ。
誕生日にでも受け取って放り込んだまま日の目を浴びせずにいたんだろ?
だから、ボクが無理矢理こじつけて使ったんだ。
『 キミのパパが忘れていった大切なものです。これをパパに届けて下さい。 』
そして、宅配の、お届け済み通知が届いた。
あぁ、今日古紙回収の日だったから捨てといたよ。
そう。
こうして、ボクはキミへの秘密を作り上げた。
本当は、火を放ち、
燃やしてしまいたかったのに。
コメント
多分、一番可哀想なのはこの詩の語り部である「僕」だと思いますが
物を捨てられずにゴミ屋敷と化していく部屋で
それでも文句も云わずに(いや、言葉に出してないだけか)
片付けをしていく
ゴミ屋敷と化してしまう人は、精神的な問題を抱えていることが多いそう
前のパートナーさんのものも、その前のパートナーさんのものも
特に今更思い出したい大切なもの、というわけでもなく
かと云って捨ててしまうと自分が失くなってしまうような
恐怖心もどこかにあるのかな、なんて思いました
「お手伝い券」
きっとまだ幼かった子どもが、誕生日かなにかのときに
プレゼントしたものなのでしょう
捨てないでいてくれたのはいいけど
捨てなかったというより、放置して忘れてた
のが正解なのかな
名前から居所を調べて、それを送ってあげる「僕」
僕に出会うことが出来て、この方は幸せじゃないかと思いました
素敵な詩でした
もしいいことが言えないなら、むしろ黙ってるほうがいいんです
難解。
創作者のマントの下にはひとりの子どもがいて
いつも遊びたがっていたのではないのか ニーチェのファン