切通しの道 (①)
かなりの距離を歩いて来たのだと思う
北の天満宮からテフラ河を越えて来た
そのころにはよく茂った暗黙の町が
星空を映す〈安産池〉に沈む
カーマスートラの煙を喉の奥深く吸い込んで
きさらぎの安宿に天竺の坊主が水汲みをする
べとべとと甘い蜂蜜の液体のまとわりつく寝床で
カマキリ族の娘に子宝を仕込む夜である
弔いの合唱曲が隣の机で開きつつある
〈あなたの声で焼香してくだされば〉
細い煙の線香をたたみの部屋に何億本も立てていれば
髪の毛はむしろのように藪であろうか
さしがねの角で背中をかいているわたしの猫たちが
衝立の角を曲がって消えたと言う
そんないつもの朝食の時間にサラエンドウの豆がころがる
猿の女房は、てばやく赤子をこめびつに押し込めて
エンペラーのための赤飯を炊く
おやおやそなたはもう七弦琴のけいこであるか
象の衣装が重たいことは誰でも知っている
そのうちには、愛染桂の機器にも耳をすませて、ジョブラーの
良家の娘に山際の屋敷をイワシャジンとするのだと
たれかある、たれかある、そなたはどこに
乱れた天地舟(あまちぶね)、シリアの砂嵐のような
こいこくのすいものの、とびらははねあげの
ももち、おんち、ぬくち、しるべすたー
あんどんは、伯爵の眼にいたいたし
そのくちべにの、両国の橋をわたれるか
たらんちーの、栄華の幔幕に散るべーの
ほととぎすすぎにけり
おんわかそわか、そなたににている
けふのつき。
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