海陸風
言葉を産めないのなら
水のごとくさらさらと
この体は漏れ出して
ただあたりを濡らすだけだろう
海から湿りある風
吹き始める午後には
飲みさしのコーヒーの中に
鳴き終えた蝉のような
諦念を感じる
そして
周りを見渡せば海の底で
まとわりつく粘着質な焦燥に
息も出来ないことに気付く
もう藻掻くこともなく沈もうか
鉛筆の芯を意識的に折り
部屋の隅の屑篭に放り入れる
それで全ては終わるかと期待するが
窓の向こうでは
外国籍の船が止まっているかのように
出て行くのだ
だから
明日
やはりなにも言えないとしたら
コーヒーとともに流してください
真白な月の下
カーテンのように揺れるその月光に
まだ口が開かぬとしたら
どうぞ
コメント
詩の言葉を書きあぐねている作者と、晩夏の苦さが、柔らかく伝わってきます。最終連、いいなあ。ほろっときます。
真白な月の下
カーテンのように揺れるその月光に
まだ口が開かぬとしたら
どうぞ
「はじめに言葉があった。言葉は神であった(聖書)」言葉を生み出す詩人は神をつくりだしてしまっているのだろうか。「人類の最も恐るべき兵器は言葉である。言葉がなければ詩もない。だが戦争もない(アーサーケストラー)」そのような恐ろしいものを生み出す詩人は苦悩するだろう。
言葉が出てこないのは苦しいです。やっと言葉が出てくる時ってむしろすらすら出てきたりするんですけど、なんだか自分がすごく嘘つきになったような気もします。ほんとうに言いたかったことは海の底に沈んだままです。
共感しきりでした。