舞台の上

舞台に置かれたひとつの刃
客席からはシンメトリーに見えるだろう
剥き出しの諸刃で長くて細い
台座にのって両端が浮いている
映す光に重さがなくて
チープに見えた
だから大して切れないと思って
握ってみたらその通り
掌を一瞬アツイと感じただけ
けれどきちんと痛かったから
おもちゃではないと確認した

そのまま掌はほどけずに
刃を握り込んでかたまった

そうして呆けていたら
上座からうめき声がした
怪我をした!怪我をした!と
訴える声がうるさい
照明がついていないから
その相手はよくみえない

こちらも暗くてみえないはずなのに
その声は「あいつだ!あいつが傷つけた!」と
どうしてか私を責め立てた
ただ握っていただけなのに
触っていただけなのに
刃は自分で動かないから
向こうも自分で触ろうとしたはずなのに

暗い舞台の上で
掌に血をにじませながら
暗がりからの声に責め立てられる役者
それは私だった

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