夜道

 
君は郊外の一本道に車を走らせて
いる 星も見えない真っ暗な夜 
ヘッドライトに照らし出されたア
スファルトはなめし革のように滑
らかだ 道の両側には鬱蒼と茂っ
た灌木から我先に逃げ出すかのよ
うに細い枝が伸びている すれ違
う車はなく バックミラーに後続
の灯りもない 右足をアクセルに
乗せたままハンドルを握った手を
ほとんど動かすこともなくぼんや
りと前方を見つめている スピー
ドメーターは40キロ辺りを指し
ている アスファルトの模様も行
き過ぎる林の景色も変化に乏しい

こうしてほとんど同じ速度で走ら
せていると 止まっているような
錯覚に陥る それはふわふわとし
た落ち着かない感覚だ どこまで
も続く同じような風景 君は突然
不安になってくる 本当は止まっ
ているのではないか このまま変
わらないのではないか そんな考
えが頭をよぎる アクセルをゆる
めてみようか 止まってみようか
 そうしたらこんな馬鹿げた考え
も消えるだろう そう思う しか
し実行できない そんなことをし
たら取り返しが付かないことにな
るような気がして怖くなるからだ

そもそもどうして夜更けに車を走
らせているのか そして一体どこ
へ行くつもりだったのか 君には
わからない 君は記憶喪失だ 君
は居ても立ってもおられず誰かに
助けを求めたい気分になってくる
 丁度そのころ遠くに町の灯りが
見える 何となくほっとする 止
まっているのではない あの灯り
を目指して進めばいいのだ そう
呟くとその町が目的地のような気
がしてくるから不思議だ 町へ続
く道に向かって本線を逸れる や
がて行き交う車もちらほら見える
と 不安な気持ちも収まっていく

この町を知っている と思う 見
えない紐で引っ張られるように複
雑な道順を辿っていく そして路
地の突き当たりに灯りの点いた一
軒の家を見る 君の家だ 君は自
然に笑いがこみ上げてくる 単に
帰宅しようとしていたのだ 一時
的な記憶喪失になっていただけな
のだ 君は心底ほっとする そし
てブレーキを踏む だが止まらな
い 君はパニックになる 家に向
かって車はそのままのスピードで
突き進み 通り抜ける 霧のよう
に通り抜けながら君は愛しい人た
ちの前に横たわる自分の姿を見る

そしてようやく行き先を思い出す
 

投稿者

愛知県

コメント

  1. 最近思うのは、たかぼっちの作品に一貫して描かれる主題って、二元論ではない、どちらでもあって、どちらでもある、っていう世界の輪郭みたいなものを感じる。変化であり停滞でもあるけど、その相反する概念が同時に成立するような。それって本来の我々の人生なんだけど、どうしてもどちらかに傾倒しようとするのは良くないね。典型的なショートショートの様式でありながら、そこにしっかり詩想を不可させる、たかぼっちの真骨頂的作品。この詩も収められている「哀しみの午後の為のヘブンズ・ブルー」を皆さんも読みましょうね。

  2. トノモトショウさん、ありがとうございます。拙著につきましては皆さん機会があればお手にとってみてください。むしろトノモトさんのすばらしい書評の方を紹介させて頂きます。https://note.com/tonomotosho/n/nc87b8e774c93

  3. 細かい描写に臨場感を感じ、車を運転する”君”の戸惑いに同調してしまった。
    この季節なので迎え火に呼ばれて、かと思いながら読んでいたら。。
    成型された字面が一本道であった。

  4. 王殺しさん、ありがとうございます。この季節にupしてみると自分でもこの季節に合っている気がしてきました。

  5. この間の夜のドライブと対の作品かと思う。
    それは帰還というか収斂というか、二つの世界の迎合。
    世界を俯瞰すれば殺すものがいて殺されるものがいる。
    誰かが正義を唱え、悪を非難する。
    しかしあたりまえだが世界は白と黒、右と左ではない。どちらもがどちらもだ。
    死と生ですら同じことか。

    と、しばし沈思黙考すれば様々な対立や炎上はなくなるのじゃないかしら。

    と星新一を詩人にしたかのような。この詩を読んで沈思黙考してみます。
    「哀しみの午後の為のヘブンズ・ブルー」、手に入れました。楽しむのはこれからです。

  6. ↑ 間違えました。これは「夢」に書こうと思っていたコメントです。ああ失礼しました。
    ポエ会のひとー、コメも直せるようにしてくださいよお。

  7. 王殺しさん「夢」へのコメントありがとうございます! 「夜道」と似た作風となってしまいましたがご指摘の通り「生と死の」狭間を行き来するようなテーマとなっています。拙書のご購入もして頂いたようで誠にありがとうございました。

  8. 幽霊? まじめな話、私個人的には、幽霊「みたいな」ものってこの宇宙世界に存在していると思っています。昔は、幽霊とかって信じてはいませんでした。まあ、今でも信じてはいないかもしれません、勝手に思っているだけで。しかし、仏さんとか神さんたちって、存在している、と最近は思っています。

    この詩の、夜道を行く情景や心情の描写が私のこころに生々しく映り迫ってきます。すてき。

    そしてようやく行き先を思い出す、と最終行は、「具体的な行き先」を書かないことで書く、というふうに読者にこの詩を読む たのしみを広げてくれていると思います。

  9. こしごえさん、丁寧なコメントありがとうございました。詩と短編小説の境界に思いを馳せて書いてみました。

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