最終回~featuring,Mrs Sazae~

 毎日の洗濯物で
 満艦飾に彩られていた庭は
 屈強な男どもによって踏み荒らされていく

 六畳間に土足で上がりこんだ現場監督は
 うち捨てられていた円卓を
 作業靴でガンガン蹴りつけながら
 部下を叱りとばす
 「こういうものは先に処分しておけと言っていただろう」

 おしゃまな妹とケンカをして泣かせ
 今日もこっぴどく叱られたのは
 いたずらばかりしている坊主頭だ
 舌ったらずのこまっしゃくれは
 若い父親の膝の上でご満悦
 慈母がみそ汁の鍋を手にいそいそやってくるとき
 美しき禿げ頭に威厳を光らせつつ
 家長は読んでいた夕刊紙を
 意味ありげに音たてて閉じる
 鍋のふたを開けるのは
 娘であり、姉であり、妻であり、母であるところの
 いつも元気いっぱい彼女の役目
 ふわぁ、湯気がやさしく七人を包みこんだら
 さあ、いただきます
 おお、これぞ正しかるべき家族の姿
 日曜六時半の幸福
 何ものにも替えがたき円卓の栄光

 パワーショベルの腕が
 ググっと伸び上がり
 一気に振り落とされると
 風は巻きおこり
 ポストからあふれ出た
 変色した督促状が
 たよりなく揺らめいて

 隣家の女子大生の
 昨日と同じ朗らかな
 「いってきます」の声

 巨大な歯が
 陽光を乱反射させながら
 いよいよ屋根瓦に食いこんで
 バキバキバキと壊しはじめる
 バギバギバギとうち砕き続ける

 グキャラゴオォッ!
 いずれ壊される塀の上
 白描が汚れきった毛を逆立て
 獰猛な声で威嚇して
 首輪の鈴がチリンと鳴った

投稿者

兵庫県

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