友だち
僕は輕いよ
何処までだつて飛べる
その男は
それで自己紹介の代はりとした
私は奥の席で
脂つこい焼き饂飩を啜りながら
聞いてゐたが
心のなかでは
俺は地べたを這ひずるぐらゐしか
能はない
当てつけにさう云つてやらうか
と思つてゐた
パラグライダーが趣味だと云ふ
そんなゆとりを持つた奴が
詩を書いたつて
ゆとりの分が邪魔なだけだ
要するに私はその男の
全てならずとも 一部は
唾棄してしまつた
後になつて
酒の席を設け
その男も招いた
なかなかの氣骨は了承したやうに
思ふ
初對面の拒絶感が噓みたいに
氷解した
が
まだ蟠りはあつたのだ
男は風呂のない部屋に住んでゐる、と云ふ
空への憧れを
捨てきれず生きてゐた
健氣と云ふのは避けたい
今でもその氣持ちに變はりはない
付き合つてみるといゝ奴つてのは
付き合わなければ
畏敬の念さへ抱けない譯で
生活に押し流され
いづれは
遠ざかるものだ
なんで私の奥齒には
いつもさう云ふ苦蟲の潰れたのが
ねつとり絡んでゐるのか?
共鳴の前に
やつかみに似た 對人の恥が來てしまふ
私は友には多くを求める
結局 遥けきものを見る
男の眼差しは好きにはなれなかつたのだ
友だちつてのはざつとこんなもんだろ?
或る女に訊いたら
「また難しい事云つて」と
鼻で嗤はれた
鼻で
嗤ふのは
簡單に過ぎる-
然し私はそれつきりその男については
女には語らなかつた
コメント
@サーラ
さん。まさしくそういう男でした。
「なんで私の奥齒には
いつもさう云ふ苦蟲の潰れたのが
ねつとり絡んでゐるのか?」
ここの表現、とても好みでした!
最近、自分が65-70歳くらいになったときにどういう交友関係の中にいるだろうかと考えることがあります。でも、「鼻で嗤はれた」ら悲しいから、そんな話は女にも男にも内緒だね、友だちだけには打ち明けようかな。
@あぶくも
さん。どうもありがとうございます。今後の参考にします。