てんごく

今日の午前中は家でゆっくりしようと思ってたら、てんごくから連絡が来た
以前に予約を入れていたらしい
急いで身の回りを整理整頓した
朝食を食べてなかったのでコーヒーだけゆっくり飲んだ

今じゃないと思いながら結婚式に着たタキシードを着てみた
裸の自分は思ってたより少し小さく、痩せていた
日本人の平均に比べて痩せすぎている
軽い劣等感に襲われた

頭がボーッとする
起き抜けだからなのか
もしくは何かの病気だったのか?
病気だったらどうなる?
急に仕事辞めたらどうなる?
そうなら家族はどうなる?
てんごくから呼ばれてるのに
取り越し苦労の嵐が頭をよぎった

友人から久々に電話がかかってきた
話ぶりが人懐っこさを感じた
あんまり話してると未練が残る
急いでるふりして僅かな時間で
窓から見える街の風景について雑談してみた
気を使って早めに切り上げてくれた
あぁ終わってしまった

庭の風景をじっと見る
恐怖が少しずつ増幅する
空間と時間に全てを委ねる
委ね切るのが結局一番安全で楽
過去に受けた人の優しさを思い出す
恐怖や不安を克服するのは他人の優しさ
当たり前の事実を今、全身で感じる
自分は優しさは持ち合わせていたかなと自問自答する

誰もいないリビングは広くて暖かく
広い窓からは河と街が一望でき
静かなクラシックが
オルゴールで流れる
携帯の電源は切った
静かな雑音のない世界
ずっと留まっていたい空間
もう外の世界には戻りたくない

壁に掛けてある娘が選んだ絵画
緑を主体に青や茶色が混ざった迷彩色の背景
迷彩色はなだらかな丘となって
大きな丸い天体が丘にさしかかる
真ん中に黄色い光を帯びた裸体がひとり佇んでいる
発行するエーテル体のごとくに
絵を5分くらいじっと眺めていると
エーテル体の影が背景に浮かび上がる
佇む裸体に続く大きな水疱のような模様も
そういえば最初は絵を一目観て、大して上手くないと断じた
多面体である事象や人を観察するには
絶対的に時間が必要だし
断ずるべきじゃないと改めて思う
そういう意味でも優柔不断は悪くない

しばらくしててんごくからまた連絡があった
人違いだったらしい
それが良いのか悪いのか
何のドラマ性もない結末は
期待外れで面白味に欠けた
それはそれで良いのだけれど

投稿者

広島県

コメント

  1. 最初からの緊張感があったのですが、最終連で、いい意味での脱力感に襲われました。おもしろいです。^^

  2. 空想と現実のはざま感が心地よいです。

  3. @サーラ
    毎日毎日、丁寧に生きられれば上質な時間が流れるのでしょうね。やたらと結果や成果を求めるのでなく…

  4. @こしごえ
    ありがとうございます。読書を騙すのが詩の醍醐味なら、ある程度上手くいったのかもしれません。

  5. @たかぼ
    ありがとうございます。おっしゃる通り、実体験もベースになってます。

  6. 自分が死と隣り合わせたらどうなるんだろうと思いつつ
    緊張感MAXで読み進めたら、最終連でやられました(笑) 最高です。

  7. @nonya
    ありがとうございます。良い感じで期待を裏切れたとは良かったです

  8. 天国への幻想を想い浮かべ、ユーモアにほろりとしながら読みました。天国行きの想像をしているわずかな間の緊張感が、なんだか、切なく、苦いです。

  9. @長谷川 忍
    ありがとうございます。今にして思えば、何だか切ない思い出です。

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