年を経り骨ばった手が
あなたの服から生えている
短くなったコンテを持ち
ゴリゴリとデッサンする様は
獲物を狙うキツネのような
強い意志を感じるのだ
それを茫洋と眺めるあなたは
手とは独立した世界にいて
その枯れた指先だけが
実在している

その手で描いた絵は
現実のはるか向こうに
扉を開いて
手にすがることだけが
その戸口をくぐる
唯一の方法らしかった
だから私はその手を愛した

その鳥のような手に
すがりつく私の手は
命で繋ぎとめられ
あまりにも重すぎて
するりと落ちて
置き去られ

あなたの視線が
私を素通りし
扉の向こうへ
消えた

私はしがらみに着ぶくれて
床にうずくまり
描き散らされたデッサンを
集め
暖炉の火に投げ入れ
燃え上がる現実の向こうに
あなたの姿を見て

誰もいない部屋から
足を引きずり
私も去る

火の消えた暖炉で
灰が崩れる

投稿者

愛知県

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