会議室会議

茶柱が立った、と言う
その声が
柔らかな水分のようで
会議室の会議の最中にも
誰かの幸せが
どこかにはあった
特急列車が通過する時の
数え切れない風圧
議長さんが小さく
手を振るのが見えた

メモをとりながら
もう二度と会えない
そう思う人の名を
半罫紙にできるだけ
書いていく
名前の思い出せない人が
幾人かいて
何かの記号に
置き換えていくと
どれもこれも似てきてしまって
わたしとの区別が
つかなくなった

透明に揺れながら
議長さんは会議をしていく
ゆっくりと紙の音
開いた窓から
近所の海が入ってくる
皆、溺れないように
机にしがみついたまま
呼吸をしている

もういらないよね、と
親戚に貰われていった
浮輪の澄んだ輪郭を
わたしは描き足した
子供たちの声が
外から聞こえて
誰もが春の訪れを思った時
会議はつつがなく終わった
議長さんはその任を解かれ
やはりわたしは
ひとり溺れた

投稿者

コメント

  1. ただただすごいなー、気持ちがいいなーと読み進めました。
    議長さんが手を振るところ、めっちゃ好きです。
    記号の形を想像したりもしました。

  2. わたしは父から、戦争中に、魚雷が命中して、命からがら逃げだした、話、を聞きましたが、〈おぼれる〉、ことは、ここにはなくても、それが水中から、陸にあがったわたしたちが、感覚することの、ずっと奥の方に、あるような、気がします。

  3. 現在が過去になる瞬間瞬間を目撃したような不思議な感覚になりました。たもつさんが操る時制はいつもすごいなー真似できないなーと思っております。

  4. @たちばなまこと
    たちばなまことさん、コメントありがとうございます。
    手を振る、ってなんかいいですよね。特別な感じ。何気なく、大した意味もなく、手を振ったとしても、振られただけで嬉しい、、、

  5. @坂本達雄
    坂本達雄さん、コメントありがとうございます。おっしゃること、わかる気がします。何が嫌か、って、溺れることは本当に受け付けない感じです。海を捨てて上陸したことへの罪の意識が遺伝子に残っているのでしょうか。

  6. @あまね
    あまねさん、コメントありがとうございます。詩の中でくらいは時間を自由に操る魔法使いの弟子になりたい、と思っています。

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