空舟は 希望する ※改稿版

この道を選んだ私の
誰にも知られることはない絶望に ほほえむ空舟(うつおぶね)は
複眼をもつ蜻蛉(せいれい)の櫓を漕ぐ。この櫓の羽の内部は
言葉を発した。
 しかし
選べない場合もある。

うん

十二時零分と明記された文末を通りすぎる。
 ごきげんよう、
ある最後は
言葉に言葉の縁取りをする
ある誕生日です。
波間を行く空舟の
縁取った言葉の 幽かに明滅する素肌は ひんやりと黙る。
火葬の煙がひとすじ昇り 雲となり 天気雨きららきらら
しん と していると心音が闇の扉をノックした

うん

心音の私の母は、母の母の母の母の母の母の母の母の母の母の母の母の母になる
心音を聴いて
私は、生まれた。
昼下りの大きな通りの風に風鈴屋の姿は 消える。
この体は宇宙の一部で、
この魂が私のいのちだ、という言葉を選んだのです。

そよぐ千草(ちぐさ)

すべてを残らず知ることはできないし
知らなくていい物事があるけれど
私は、雲影を繰り黙読して この悲しみと帰った
さまざまな 心音がする闇に。
忘れられない 忘れられないのならば
忘れられない物事と共に生きて行き 忘れられない物事を こころの糧にしよう
そう なにが災いするかわからない代わりに
なにが幸いするかわからない
あきらめないこととあきらめることのバランスの深呼吸をする
白黒写真に伝言を頼んでおいた羽は思いつづける
みんなをつつみこむ空を
みんながほほえむ日まで

ある最初に鳩時計が教えてくれた
一度限りの産声は やさしい空を思うことで
こころを映す月の思いやりに気付いた
私は月のほの明りに照らされた今
今があるのは つながりのおかげです

 涙を零す私

ありがとうございます。
この青い星の水は
いのちとつながっていて
このいのちは さまざまな いのちに支えられている。
選んだ言葉は
このこころを流れる

青ざめた年輪の終りを刻み込むつながりが
私の奥の悲しみに
黙礼をする。目には見えない遠い星を見る静けさと
水の道を遠回りしながら 心音の芯の櫓を漕ぐ
(果して 光は光か 闇は闇か 。何かがある それは何とは言えない何か )

ほほえみ おだやかな世界を 私は 希望する

投稿者

コメント

  1. コラージュのようで、僕にはこの詩の本質や意味を捉えることはできないかもしれません。静謐に向かう道程、様々な出来事を越えやがて平穏な境地へたどり着く様を選ばれた言葉とその響きで強く感じました。寂しさとともに。
    静寂なほど人生は美しいと言う人もいます。

  2. まず、ありがとうございます、拝礼。
    (はい。すべてを残らず知ることはできない、とこの詩のなかでも言っている通りです)
    王殺しさんが誠実にこの詩と向き合ってくれたことに感謝です。
    王殺しさんが、そのようにこの詩を読んでくれて、そのように感じたりしたことをこうして私に伝えてくれていることにも多謝です。
    ああ、そうですねぇ。この詩から、それらと共に、寂しさも感じてくれて貴重に思います。
    うむ。静寂というのと少し違うかもしれませんが、雑音があるからこそ静けさを求めるのかもしれませんね。うん。

  3. 自分は逆に「心音」という言葉が出て以降、ずっとビートを聴きながら読みました。こしごえさんの作品には一貫して「いのち」を感じます。漫然と生きているオレに改めて「いのち」を考えさせる刺激をもらってます。

  4. トノモトさんへ うむ。詩を「読む」のに正解は無いと私個人的には思います。
    なので、王殺しさんの読みも、トノモトさんの読みも、どちらもそれぞれにそう読まれていいのだと思います。
    以上を踏まえた上で、トノモトさんがそう読んでくれたことを貴重に思います。

    ああ、そうでしょうか。「いのち」。うむ、そうですねぇ、私の場合、詩とは、(私にとって、)死を含んでいる生だと思っているので、トノモトさんが私の作品から「いのち」を感じてくれていることをありがたくうれしく思います。
    そして、トノモトさんに、私の作品があらためて「いのち」を考えさせていることを光栄に思います。「いのち」を考えてくれて、刺激をもらってくれて、ありがとうさま。
    トノモトさん、私にそう言ってくれて、とっても ありがとうございます。(泣きませんけど、うれしくて泣きそうです)

  5. この世の哀しみと幸いを語る、優れた詩という文学と思います。

  6. 剛さんへ この詩から、この世の哀しみと幸いを読み取ってくれて、ありがたく貴重に思います。
    その上、剛さんが、この作品を優れた詩という文学とまで思ってくれまして光栄です。
    剛さん、ああ、ありがとうございます。

  7. ある最初に鳩時計が教えてくれた
    一度限りの産声は やさしい空を思うことで
    こころを映す月の思いやりに気付いた
    私は月のほの明りに照らされた今
    今があるのは つながりのおかげです

    ここまで読んで、少し、このお作品も全貌が見えたように思いました。長い、永いつながりの中を、静かにながれていく空舟…。輪廻転生は、身体性とともに、身体に宿った意識の内側を、内側にある「言葉」をも巡っているのでしょうね。

  8. すみません。訂正箇所がありました。失礼です。
    このお作品も ⇒ このお作品の

  9. 長谷川さんへ うむ。個人的には、作者である私が自分の作品について どうのこうのと解説するのは野暮だと思っています。とはいえ、言葉の順を追って読むことはできますが、正直に言えば私にとって、この作品のみに関して言えば、すべてを残らず知ることはできない、ものであります。
    まあしかし、作品を読者の前に出す場合は、読者の感じるまま思うままに作品を読んでもらえればいいと思うのです。
    なので、長谷川さんが、そのようにこの作品を読んでくれたことが、貴重でありがたいことです。
    はい、そうですね。長谷川さんに言われて、「ああ、その通りだなあ」と長谷川さんの言ってくれたことをうれしく思い感謝します。ありがとうございます。

  10. あ。すべてを残らず知ることはできないのは、この作品だけのことではないですね。すべてを残らず知ることはできないのは、さまざまなことに関して言えることですね。

  11. ん。念のために申し上げますが。
    他の詩人がご自分の作品について解説などをするのは、もちろん、そのお方の自由ですよね。
    それに、基本的には、私も自分の作品について必要ならば できる範囲で解説などをします。
    拝礼

  12. んん。なんというか、基本的には、私はできるだけ多様性を認めたい奴なので、いろいろと言うのであります。拝礼

  13. 作者にとってどの詩も大切だとは思いますが、この詩は特別に大切な詩なのでは?と感じました。心臓を握られたようなここち。
    〉火葬の煙がひとすじ昇り 雲となり 天気雨きららきらら

    ここに特に震えました。

  14. たちばなさんへ うむ。はい、そうですねぇ。この詩も大切です。私は、「詩とは、私にとって、死を含んでいる生だ」と思っているのです。まあ、昔ほど詩について深刻には思わないようにはなりました。いい意味で、詩について思うようになったというかですね。うん。

    たちばなさんが、この詩から感じたりしてくれたことを貴重に思います。
    そこに特に震えてくれて、ありがたく感謝します。ありがとうございます。
    その一行は、実際にあったことで、ずっと前の出来事です。
    雲というのは、水滴の(ほこりなどの)核になるものがあれば できるそうです。その日、火葬の煙が雲になったのかは分かりません。しかし、火葬している最中に私が火葬場の玄関の石段に座っていたら、実際に天気雨が降ってきて、その雨がきらきらとしていました。私はその雨を浴びた。この出来事を、この詩に組み入れたのです。

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