タビヌスの通路
熊笹の中から彼があらわれて、荒い息で、すべてが解明されたと言う。通路は宇宙を経巡って、時間をくぐりぬけて世界と人間の意識を穿たれた穴のように、虚無そのものへと繋がっている。そして人間自身をその脳髄の成立する通路へと絡まる蛇のように渦巻いている。タチアナの進言する機械仕掛けの巨大な〈思考機械〉はすでにその理解の先に〈リングの真理〉へと到達していたのである。荒い息をしずめてこのテーブルに彼が語る言葉は、おおよその了解でしかないのだが、確実に宇宙の〈芯に起こる〉かすかな林檎の匂いを解明する。すなわち踊る、すなわち吐息、すなわち感情の嵐。泥で汚れた彼の靴が暖炉の火で乾いて行く時には、わたし自身は確実な未来の予感として、その通路の中へと意識が迷妄するのである。すばらしい洪水の世界に幾度も立木が根から抜き取られて、わたしの庭には巨大な船が流れ着く。あらゆる可能性の中から核融合された磁力線が、歴史の彼方でスパークする。死と渇仰の頂点に立つ、細胞体の秩序として、その通路へと意識は向かっているのである。船の中では氷の塊が地図の形に変形して行く。ここにそれが隠されているのですと、彼が明示された思考の先端で、ウイルソンに指示する時には、南回帰線を越えているこの平板な船底の一部ではもう、溶けだした意識の潮流が輝きと眠りとで彼等の角膜に点としてあらわれる。鹿のような声で音楽の不変性を喉をふくらませて、鉄と合金のテーブルに流れだす。すべての改変された意識を、すべての埋葬された肉体を、ここから〈タビヌスの前へと〉、歌うように運び出す。
コメント
こんばんは。
素晴らしいと思います。
ありがとうございます!
イメージの量に圧倒されます。素敵です。