断崖──神の手になる陰惨な絵

 それは、時間と空間によるポリフォニーが許された唯一の場所。……月であれば、「静かの海」、ソビエトであれば、「バイカル湖」。古代よりなる生物の堆積が、この地層を埋め尽くしている。トランプのAからKまでを想像してみるが良い、それはトランプの兵隊(J)による銃殺。王様(K)と女王(Q)ですらがそこでは殺害される。……この崖のうえからは、殉死という名目でつねに人々が<落ち>続けている。しかし、それは神の手になる「殺害」ではない。それは、神の手になる陰惨な「救い」である。幸福が強いられるとは──なんたる地獄──の、あの享楽のような、甘美な<永遠の生>への階梯なのだ。魂だけになった人々が、そこで頌歌を歌う。……ラ、シ、ド……ためらいがちに、一歩ニ歩、前後する。墓場の旋律(メロディー)。そのとき、神々は笑った。人間という卑小な存在に許されたたった一つの答え、<死>を、胸に打ち震わせかき抱きながら……。それは、彼らにすれば素晴らしい思いつきだった! しかし、それは人間からすればなんとも惨めったらしい退屈……。唯一残った、トランプの<J>。

投稿者

宮城県

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