百合

私も、君も、子供だったんだよね。
眩しいほど白い心で草むらの中を揺れていた頃があった。
いつしか、茎に牙が当てられた。鋭い痛みが最初の白を壊した。
私たちは切り取られ、この世界にきた。

初めて見る景色が新鮮だったあの頃は恐ろしい。 
いつしか黒く光る道ばたに置いていかれて、誰かに踏まれて、灰色の百合になった。
花になったのはなぜか、日に日に答えから遠のく。
あの白は夢のどこかへ、あの原っぱはどこかへ。
そんな灰色の街でも白く誇ればいいもの扱い。特別扱い。
君は街頭に照らされ道を渡っていく。
私たちの知らない道へと歩いていく後ろ姿は誰もの憧れ。
ただ白く誇れば彼方へ行ける。「彼方」はすごくいいとこだという噂に惑わされたやつ。
強い心を見せつけてやつは言う。「成功した」

じきに、君は戻ってくる。私たちより暗黒な百合なって。
私も君も、子供だったんだよね。
私も君も、この世界を知ったんだよね。

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