ネズミ男6 月面で無重力正座

ネズミ男は
宇宙服の下に袈裟を着ていた
NASAの連中は気づかなかった
だって悟りは
バイタルに表示されない

月面に立った瞬間
彼はぴょこんと跳ねて
ここは地獄より軽いな
と呟いた

岩陰で正座を試みるが
尻がふわりと浮いてしまう
無重力で正座って
もはや妄想じゃんとほざいたら
後ろから宇宙飛行士が
むしろそれが悟りですと
囁いて去っていった

月の石に手を合わせ
南無妙法蓮華経を唱えたら
通信がバグって
ヒューストンに読経が流れた
地上では誰かが言った
このノイズ屁の匂いがするぞ

ふと見上げた地球が
青く揺れていた
ネズミ男は鼻をすすり
きれいだな あそこには
うっかり作っちまった
バカラの借金があるんだよ
と呟いた

最後は
重力が恋しくなって
静かに浮きながらこうも言った

地に足がつかなくても
心が座れば
それが正座ってことにしねえか？

それで蓮華座のまんま
回り始めた