ネズミ男8 脳内カプセルホテル

ネズミ男は
自宅を追い出されて久しい
不動産屋にも国にも宗教にも
借りがある
でも心配するな
今じゃ俺の脳内には
鍵付きカプセルが17個
一つ目は 母のぬくもり
二つ目は 深夜のエロラジオ
三つ目は 誰にも言ってない泣き場所
残りは全部 使われてない
爆弾みたいなもんだ

夜になると
頭の中にチェックイン
記憶の布団にくるまりながら
無音のWi-Fiで祈る
隣の部屋から
おかえりって聞こえるけど
それはたぶん
昔の自分だ

ネズミ男は言う
俺の住民票は
思い出の空き地にある
区役所に行ったら
書類の形式が合いませんって
つっかえされた

夢の中でしか帰れない町
そこでしか
本当の自分に会えないなら
もうそれが自宅でいいや

朝になったら
また頭のロッカーを閉じて
チェックアウト
現実という共用廊下を歩く
誰とも目を合わせずに
因縁つけられるのも
ゴールデン親父に
追いかけられるのも
ごめんだぜ