ネズミ男10 嘆きの壁の前に立つ

ネズミ男は
エルサレムの朝に立っていた
嘆きの壁の前で
ポケットから
チュッパチャップスを取り出し
これが俺の祈りです
と言った

ユダヤ教原理主義者達が
静かに揺れながら
詩篇を唱えるなか
ネズミ男は無言で
壁に手を当てた

貼りついた祈願メモの隙間に
そっと
核兵器ボタンのパスワードを
書き込んだ

神よ俺の願いはひとつ
誰にも見られずに
堂々と泣ける世界をください

ふと足元に落ちたメモを拾う
平和を願う
誰かの文字
にじんだインクの隣に
カリカリ梅のシミをつけて
ネズミ男はそっと戻した

壁の反対側では
少年兵がTikTokを撮ってた
それが希望ってもんかい?と
つぶやいた声に
ハトが一羽
ハマスから打ち込まれた
爆撃に驚いて
空に飛び立った

最後にネズミ男は
帽子を脱いで一礼し
壁のひときれを
コンビニ袋に入れて
持ち帰った

ザ・ウォールド・ホテルの
部屋に貼って
今日もこう言う

神は不在かもしれねぇ
でもこの壁の向こうに
俺の泣きは残った気がする
誰かがボタンを押して
色即是空

投稿者

東京都

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