追憶

時間を
静かに呑み込む。

香りは喉元を伝って
いくつかの境地に
辿り着く
ひとりでいた時間
潤んだ空間。

言葉を綴るとき
不安のちいさな塊が
よみがえってくる。

それを詩と呼ぶのなら
私はどこまでも
時間を下りていく
悔恨のように。

現実は
そこにあるのではない
柔らかくずれているのだ。

現実を信じてはいけない
喉元を伝うと
追憶と被さっていく
うねりの底に消えていく。

香りだけを
覚えておくことだ。

投稿者

東京都

コメント

  1. 時間とか現実とか言う名前のお酒を飲んでいるような気持ちになりました。詩のバーテンダーみたいですね、長谷川さん。
    「言葉を綴る時」の連と、「現実は/そこにあるのではない」の連が特に好きだなぁ。

  2. あぶくもさんのお酒の解釈が素敵。バーボンとか、ちょっと大人の(オレはまったく飲めないので)強いお酒って感じ。時間に香りを見つける長谷川さんの感性に惚れます。

  3. 追憶。思い出すことが出来る人は幸福なのかもしれませんね。
    私は、忘れっぽいので、追憶出来る人を幸福だと思います。まあ、追憶にも色々とあるでしょうけれどね。

    この詩の香りは、豊かです。

  4. @あぶくも
    あぶくもさん。なるほど、そういう読み方があるのか、と目から鱗でした。お酒を意識しては書かなかったので。たしかにそういうふうに読めますね。ありがとうございます。…時間を呑む。たしかにお酒ですね。

  5. @トノモトショウ
    トノモトさん、バーボンは好きです。ワイルド・ターキーとか、ジャック・ダニエルとか。もっとも、私の「時間」は、そんなに美味しいものではありませんが。時間と香りをテーマに書いてみたいという思いがありました。あぶくもさんが瀟洒に読んでくださいました。

  6. @こしごえ
    こしごえさん、齢をとったので、未来より過去に目が行くようになりました。自分を確かめる、というのかな。たいした人生ではありませんが、自分の過去をを辿っているところがあります。

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