止まらんやろーなかなか

生理の血で濡れたパンツは
当にぼくの脳の重さを、
陰湿さを
相応しい総量で
ヒタヒタに震わせる。

そこには緑色が無くて、
草がなくて
森も林も伐採され
ただただ暗い洞窟に、
蛞蝓やコウモリや
百足なんかが一人ひとり
暮らしていて
ぼくだけがイレギュラーな人種みたいな瞳で見られる。

いっぺんでいいから、
路上で倒れ込んで疲れ果てた人のように
優しくたいせつに
扱われてみたい

百足や蛞蝓のように
コツコツ
お金を稼いでみたい

そんなことを思いながら
石ころを蹴飛ばして
変なリズムで世界をながめてる。

猫ちゃうか
いぬちゃうか。

ドアを開けたら前の人の洗濯物がまだ残っていた。

… …

パンツは、単純に、
血が滲みたら
鉄臭くて
洗うのんも手間が掛かる。

真実は
残念なことに
忌ま忌ましいうえに面倒くさいから
誰も見て見ぬふりしたがる。

マニュアル外の対応なんて怠い。
その魂胆を見透かして、
泥臭いヒステリーを
ぶつけてくるような人の眼尻に
いやらしい搾取を感じると
なんともいえない。

ぼくはそこらへんの腐臭を
嗅ぎとりながら、
たぶん自分の異常な部分を
感じ取ってもいて、
生きていたらあかんなあ

答えが出てるのに
スパッと死ねもしない情けな息吹を
眼窩に感じて
透明なマゾヒストに
なってしまっている。

ついでに、
「それがわかっているだけましよ」と
なぐさめにもならない慰めを
「ありがとう」と頭を下げながら
受け取らないとあかんので
非常に不服ですけど仕方ない。
向こうに悪気がない。

システムやから。

…  …
「アンパーーンチ」

残酷な事から
学ばない人だけが
本当の愚者(救いがない人)やと
ぼくは
ぼんやり考えてる。
でも救いがない人に救いがない社会こそが
本当に恐ろしい気もしてる。

バイト先の責任者の女性が
一切のためらいなく(たぶん悪気なく)
差別用語を連発「ほ×」「お×ま」「め×ら」「く×んぼ」「れ×」これを
耐え難い気持ちで聞かなあかんのも
言い正せないのんも、
ぼくの生きる居心地を凄い悪くさせた。
更にその直後「娘が可愛くて心配やねん」と付け加えたことにより
ぼくは人のザラザラもツルツルも
あわせ呑めるほどの器用さがないことに絶望した。

… …

ぼくの唯一の心理的
安全圏(鍵を掛けられる密室)から
カーテンが礼儀正しく揺れてるのんが
健気やなあとか想いながら、
窓の向こうの豪邸やらでかいビルやら
見ていると
胸の中がひんやり冷たくなってく。

これが喫茶店のアイスコーヒーなら
めちゃ嬉しいのになあとか
かなしんでみたり…

この子、血みどろのパンツは
ほんとはぼくには必要ないと思うし
みんなも感じらへんのかなあと。
自分がいらんと思った物を
大切に持ち続けるのは
難しいって
感じらへんのかなあ。

だから愛おしいとは
一回も思わず
鬱陶しくわずらわしく感じるだけで
たぶん
一生が終わってしま

でしょ?

「おかしい自分ん」

… …

神様がイジワルやなあと感じるタイミングは、
要らない人に要らない機能を押し付けて
要る人に与えてあげへん
それどころか奪うところやと思います。

だからぼくは神頼みなんかしない。
だって
神様が一番のワル
(サディスト)なんやもん。

…  …

たまに電車を使って
散歩に出てみると、
男たちが(全員ってわけじゃなく
一部の男が)母性や甘やかしやら
膚への接触をむてっぽうに無差別に
目線で探してるのを感じて、
ここにそんなやさしい生きもんが
宿ってるわけないやんかと
自嘲しながら、女かて
お母さんとかお姉さんとかに
癒やされたいわ、と

とうめいな拳銃を静かに
取りにいきたくなります。

我ながらとんでもないやつや、
と思いながらぼくかって
誰かに癒やされたい。

出来れば女の人が良い。

バンバンバンッ

「笑ける。笑ける!
詰まり同じ穴の
虫なんや」

ああっそれですみませんね
話が脱線してばかり

… …

ぼくは女であり、
ぼくという一人称は
古くから男が使ってきた言葉みたいで、
「なんで女の子やのに
ぼくなんて使うのん」
と知り合いの年上の女性に聞かれたりするのです。

その女性は、
世間的にはオバちゃんと分類される
お年らしいですが、ぼ
くはオバちゃんと呼びたくないから
今井さんと呼んでいるのです。

そういうのんが
配慮なんか
ぼくの拘りなんか
いい人ぶってんのか
さっぱり区別ができへんので、
ぼくもアホやと思うし
頭が足りへんのは申し訳なく思います。

これから話すのは
架空の人物やからいいけど、
本来はアウティングという
人の言われたくないことを
バラすいけない行為やから、

みんなは気いつけて聞いて下さい。

…  …
話し相手のみさきちゃんに、
あたしはお母さんみたいな人と付き合いたいねんと
相談を受けた。
男が嫌いとかこわいとか言うんでもなくて、お母さんが理想やねん、とみさきちゃんはキラキラな瞳でぼくに溢した。

よく、女の子が
お父さんみたいな人と結婚したいなんて話は聞くが
みさきちゃんは違う。

ぼくは言いました。

ぼく「それで、それで
ぼくは思うんやけど
みさきちゃんはママが好きなん?」

みさき「いやっそれは言い過ぎや
話が飛びすぎ」

ぼくはたまに物言いが
ストレート過ぎると注意されるので
気にしてはいるものの、
またしばし反省して
懲りずに話を続けた。
もちろん話始める瞬間にちょっとはためらう。
言い過ぎるか?

… …

ぼく「ごめんな、悪い。
でもぼかしすぎたら
なんも話せへんかなって思った。
解決したいのでしょう?」

みさき「まあなぁさっきのんも冗談やで。
あんたたまに冗談通じへんから
こわい」

ぼく「うんぼくもそう感じる。
でも真剣には、考えてるよ」
ぼくはちょっとだけ鼻をこすった。
真剣な言葉を言う時はちょっと恥ずかしい。

みさき「まあな、まあな。
ありがとう。
あんたは寛容なんか
せまっこいやつなんか
とらえどころがないわミックスちゃう?」

ぼく「お好み焼きみたいってこと?」
急にまんがの吹き出しみたいな
ひょうしぬけな疑問を投げかけたから
みさきちゃんは困っていた。

みさき「あたし変態かなあ」

… …
真剣に考えてみたって、
全てのことに答えが出るわけじゃない。
相手を思うから言葉に詰まることもある。

ぼく「ぼくは自分が傷つきたくないだけなんやろうな
意気地なしなんやろうな」

みさきはなにも答えなかった。
ただ代わりに
ちょっとだけぼんやり笑っていた。
みさき「わたしにもそういうとこあるで」
とラメの爪をコツコツと、弾いた。

ぼく「変態ちゃうと思うけど。
でもぼくがなんて言ったって、
みさきちゃんが認められたいんは
社会やろ?」

みさき「うぅん、
 かもなぁ」

… …

洗濯機がくるくる回り続ける。
あのパンツは
この瞬間だけは忌ま忌ましくはない。
不思議なもので
視界に入るか入らんかでわりと
忘れたり出来るもんなのだ。

最近ニュースでよく見る容疑者のかおをふと思い出した。
ストーカーの人がなにを
そんなに壊れそうになりながら探してるのんか
切り離せないほど頭の中で何が起こってるのか。

ぼくにある底知れぬ淋しさを
重ねたりしてみて、
ぶわあっと身体がさぶくなる。

誰にも批判、非難されへん人間になるには、
死ぬしか無いんちゃうかと
鬱の血潮が胸の中で、ざわざわ
騒ぎはじめる。

みさき「はっ
頭撫でたろか?」
ぼく「遠慮しとく。
ぼくは人に触られたら
ゾワゾワゾワってするから」

みさきは盛大に噴き出して、
鼻水を指先で拭った。
ラメが臙脂のハートに光っていた。

「…………………………」

みさき「そんなん
断られたんはじめてや
もーさいあく
あんたのせいでメイク台なしやん」

ぼく「メイクは大変
それだけはぼくにもわかる
笑われたのはちょっと恥ずかしい」

結局、ぼくらの会話は
どこかズレて居るけど
まったくズレへん会話なんか
ぼくらには難しいから
まあ ええやろと 
みさきちゃんが許してくれるんなら
まだしばらくは
一緒にいてもいいんでしょう。

洗濯機はまだ
くるくるごぉごぉ
苦しそうに
回り続けていた

みさき「止まらんやろーなかなか」

投稿者

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。