それはユウレイタケことギンリョウソウのように羽根も足も胴体もすべてがやや透き通った乳白色をしておりそんなゴキブリが飛ぶ夢を見たと目覚めに私が言うものだからそれを聞いてまだ隣で寝ていた妻は顔面蒼白となった朝私は妻が同じ色になってしまうのではないかと恐れた随分古い過去の実話がありその過去をどうにかこうにか希望を持ったまま保留したことによってこんなにも何もなくて豊かな現在がありこの現在もまたある一点にしか過ぎないのだと何かの書物で読んだことがあり単なる受け売りなのだけれど酒のつまみにはなる話だろと隣の男が偉そうに女に言うのを聞いて反吐が出るほどカンパリソーダが不味くなってその店を後にしたところヌラヌラと黒光るマンホールにハイヒールの踵が刺さったまま抜けなかったからか妙な角度で足首を捻ってしまい何とも言えない音がして倒れ込んだのは私ではなくてその女であったことは誰も知らないはずなので黙っておくことにした夜のその出来事は何の教訓をもたらすのかと考えて考えて結局何にでも教訓を見出すことはできるのだろうけれどその何にでも教訓を見出そうとする姿勢こそが気持ち悪さを助長しもすれば書きたいこともないのに書こうとしてしまう詩人のような不幸を背負って生きづらい世の中を生きてゆくことになるのではないかと悟ったのが若造なんかであればやり切れないなとアンチョビポテトをつまみながら少しぬるくなったIPAをチョビチョビ喉に流しこんでは鼻腔を内から駆け上がる苦味にうっとりとするから何だか他のことはどうでも良くなって田中がアイツとヒソヒソ話をしながらチラリとコチラを伺いながらいやらしい目でニヤッとしたこととか炬燵の中で伸ばしたおれの右足がおまえの太ももに触れていたのを良いことに少し動かしてみた時の天板の上のおまえは顔色ひとつ変えずにおれの目を見たまま文化祭の出し物を何にするかについておれの意見を求めに来た時の14歳のあの背徳感はもう忘れることにしてとっ散らかった記憶の断片が今のあなた方の人生を形作っているのですよと先生みたいなことを言う姿を想像しては涎を垂らしておるのです

投稿者

千葉県

コメント

  1. 一気に流れるイメージに引き込まれました。やっぱすごいな。

  2. あぶくもさんは日常とそれ以外を織り交ぜるような表現が上手なんですよ!
    一気に読むと物理的に涎が垂れるなぁなどと他愛もないことも想像しました。

  3. @トノモトショウ
    さん、コメントありがとうございます。
    またコメントしづらいやつなのに感謝!

  4. @たちばなまこと
    さん、コメントありがとうございます。
    そうなんです、夢と現(うつつ)を行ったり来たりしながらその境界があやふやになってしまっておるのでございます。涎出しながら一気読みしてくださったなら本望でございます!(流石に垂らしてないわなw)

  5. あ”ーいいですねーいいですよ、すごくいい!こーゆースタイルやらせたら僕らは強いですよね!(勝手に僕らで括ってしまって申し訳ない)あぶくもさんはもう既に僕の同志です。焼鳥はとり皮タレが好きです。あ”ー涎が…

  6. @三明十種
    さん、コメントありがとうございます。
    僕ら??とんでもないっすよー、三明十種さんみたいなスタイルのやつ私には書けませんよー。あ、でも同志的に言ってもらえて嬉しいです。上京されたらマニアック屋台焼鳥、お連れしますよー、船橋ですけど。ちゃんと鶏皮タレ頂きました!

  7. イメージが流れるようにつながっていく。散文詩の醍醐味だな、と思いました。虚飾のような、日常のような、幻想のような、語り口ですね。

  8. @長谷川 忍
    さん、コメントありがとうございます。
    散文詩と言うか一文詩と言うか何なんでしょうねコレは…。自分がこういうもので出来上がっているとは言いたくないようなイメージが、涎のように垂れているのです。

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