巨像

今となっては、この国の中心にある石像も
遠い昔は小さな村であったらしい
石像には、伝説が添えられている

小さな村に予言者が訪れた
一枚の絵を描き上げた
この像を建てれば、必ずや、この村は救われん
いいか、犠牲あっての救世じゃ、忘れるな
予言者は去った

村人は話し合い、総掛かりで小さな村にはそぐわない
大木と同じくらいの高さの石の巨像を造り上げた
年月は経ち
予言者の言葉は忘れられ
この巨像自体が神として
村人から崇め祀られるようになった

当時、国は乱れ
王は跡継ぎを決めぬまま暗殺されてしまった
下克上の世の中
近隣の村々を配下に収めた強大な村が
巨像の村に使者を遣わした
使者はいう
収穫の半分を毎年献上するか
全員奴隷にされるか、選ぶがよい

尊大な使者が村を去ったあと、村人は集まる
今こそ、巨像様の出番に違いあるまい
村人は全員で巨像の前にひれ伏し
巨像が動き出すのを待ち続けた

やがて、返答がない巨像の村を攻めるべく
強大な村は、圧倒的な戦力で村を囲む
村人は、ひたすら祈り続ける
巨像は、ピクリとも動かない
巨像の前で村人は話す
伝説なんぞ、信じても無駄じゃ
もはや奴隷にでもなるしか生き残る道はない

村の長老はいう、巨像が動かない
ならどうして予言者が現れたのだ
気づく、顔じゃ
巨像と同じ顔の村人はいないか
そこで、一人の村人が選び出された
村人は、巨像と同じ顔をした村人にいう
何とかしたまへ、助けたまへ

巨像の顔を持つ村人はいう
分かった、使者として話しあってくる

巨像の顔を持つ男は強大な村の長に会う
強大な村の長はいう
降伏だな、生命だけは助けてやろう
巨像の顔を持つ男はいう、この顔を見よ
ああ、有名な巨像と同じ顔じゃな
だからどうした
あの像はわしが声をかければ甦る
全長10mの動く石像に敵うとでも
かん高い声で笑う、強大な村の村長 
与太話を信じるとでも、帰るがいい

使者は返された
いよいよ全滅を待つだけとなった
巨像と同じ顔を持つ男はいう
不思議じゃ、わしは何をすればいいのか
大昔の予言者は何を見たのか

深い沈考ののち、男は巨像に駆け登る
肩のところで、自らの首を跳ねた
ほとばしる血潮と、薄れる意識
そう、これしか、わしの出来ることはない‥

気付くと、男は巨像になっていた
村の塀を押し破る兵隊たち
巨像は動き出す
凄まじい速度で兵隊たちに迫り
瞬く間に首を跳ねていく
逃げ出す兵隊たち
後を追って強大な村の村長を追い詰める
恐怖の顔を浮かべる村長
と、その首も跳ねられてしまった

すべての敵の首を跳ね終えた
血まみれの巨像は、元の位置に戻りいう
もう意識が薄れてきている、皆、無事か
村人は象の前に集まり、頭を垂れる
無事じゃ、お前のお陰で、皆生きとる
それを聞いた巨像は動きを止めた
下には巨像と同じ顔の男の遺骸があり
男の顔は、微笑みを浮かべていたという 

投稿者

大阪府

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