しろい景象

 アナベルの咲きそろう庭に遭い
 手で触れることを
 ためらって

 六月の午後にあがった
 冷たい雨
 潤ってあざやかな花房に
 そっと 顔を寄せると
 控えめで甘い匂いは
 とりとめのないヒミツの豊穣

 その無調音楽の螺旋階段を
 ゆっくりとのぼっていけば
 純粋の重量が、手のひらにあって
 胸の奥のほうで沫いてくる
 さみしい感覚

 アナベルの咲きそろう庭に遭い
 新鮮な果物のように
 うたう花、
 白緑の湿り気を深く吸いこんだ
 しろい景象が私をみつめて

 生活の垢の浸みる手で触れることを
 ためらってしまう
 肉と骨、脈打つ生温い臓腑だけで
 存在し得ないひとりの女
 心に輝き充ちるものなど無くてもよい!

 きょうは豪華な毱の花影を
 只 いっぱいに背負って不思議と
 安堵するのだ

投稿者

滋賀県

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