雪と火

ふわふわと
舞い散る夏のぼたん雪で
オフィス街は
零下のきらめき

天使が
嵌め殺しの窓から顔を覗かせ
スーツの恋人にキスして
勤務中だと神様に怒られている

際限なく芽生え続ける
碧い双葉
双葉の次の双葉
双葉の次の双葉の次の双葉

嗚呼
鴉が夕焼けを呼んでいる
黄昏る世界に
幸せを歌いながら

抱き締めようと広げた腕はからぶって
君は永遠の愛について
光を追い求める植物のように
人は人の心を欲する

降り止まない雪の結晶に映る
無数のあなた
それがいつか私だった頃
まだ誰も死について考えていなかった

夜闇の中
火を灯すことも出来ずに目を開けている
その恐怖
聴こえるあなたの声が愛おしい

まだそこに
君の形のくぼみが残っている
シーツの皺は波の様に打ちながら
二度とほどけない

嗚呼
世界は美しいところ
なぜそれが分からないの
目を伏せて君は笑う

精一杯に広げた背中の翼は神様の贈り物
光るこの頭の上の輪っかは
君を生涯笑わすためのもの
まるで人になったつもりで話している天使の

胸元にある
爪の跡だけが
人を愛したという
真実の証

何も写さないカメラの言う処
消えかけた灯火の
消えた後の闇は
尚昏い

投稿者

神奈川県

コメント

  1. 優しさが滲み出てくるような詩です。
    純粋な気持ちに包まれました。

  2. @アルセーニ・ヴェーテル
    お読みくださり有り難うございます。

  3. 双葉のくだりが特に好きです。

  4. @たちばなまこと
    有り難うございます。
    世界の質感を確かめるように育っていく鉢植えたちの記録です。

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