その日、映画館で 2
りお、という名前を教えて貰ったのは、
つい最近のことだ。
ライオンみたいだね、と笑った。
彼はもうとっくに成人していて、
俺より目線が十五センチは上にあって、
肩に顎も乗らないぐらいだった。
実を言うとこの時世で、自分に性別がないことも、
珍しがられたりはしなかったが、あまりいいことじゃない、
言わなかったが隣にいるとカップルみたいに見えた。
だだっ広い畳みたいな薄雲が広がっている。
お陰で空は平面に近かった。
普通の人は飛ばないんだよ、と目でりおが言う。
普通の人って何?
神様って何?
天使ってどういうこと?
一歩ごとに嘆息が洩れる。
憂鬱な気分なのは俺だけみたいだった。
世界は幸福で満ち溢れている。
何を思ったのか、
ショッピングモールの映画館で、
「cube」の再上映をやっていた。
隣に座っているだけで、
災害みたいに非日常の雰囲気を醸す奴だ、
なんで俺こんなのと。今ここでこの映画観てるんだ。
ずっとそんなことしか頭に無かった。
初めて会った時、
女の子にしか見えなかったのになぁ。
「チョコボール買っていい?」
「何?」
「銀のエンゼルが欲しい」
りおは黙っていた。
良いとも悪いとも言わない時は、駄目なのだ。
俺の為じゃないのに。
障がい者が数式を解けるのが皆に分かる場面だ。
あれ、なんで数式だけは解けるんだろう?
意外と鋭いことを思った気がした。
「その子、りおのこと好きなの」
「さあ」
「片思い」
チケット代は払ってくれた。
金の概念がいまいちわからないが、
マザールードは豊富にあった。
「ずっと一緒にいたいって思う」
「あんまり思わない」
「へえ」
何処を見ても人だらけだった。
要らない物しか売っていなかった。
がらくたの為に使う金がある。
「りお、いい男になったねぇ」
「そりゃ誰でも年を食ったらそうなるんだよ」
「年を”食う”?」
かにかに。
神様は年を取らない。
少なくとも俺は取れない。
スティーブ・ブシェミの真似をするのが夢だった。
そう言ったら、りおは噴き出した。
知っているらしい。
「お母さん元気」
「自殺したよ」
「お気の毒に」
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