円環の情景
泣かない
泣かないで、
泣かないと言った
それは紫陽花のような、
心が移り変わる、
雨の朝。
うつむいて、
いつかの思い
いつかの想い出、
ピンボールのように、
はじけて、
ゆれる⋯⋯
葉。
明後日から、
やってきたよ。
未来の使者だよ。
そこでは戦争なんてないから
そこでは諍いなんてないから
“ぼく”を信じて?
⋯⋯なんて。
なんて、
色の栞は本に。
あなたがくれた本に、
はさまっていたから⋯⋯
もういちど信じようと決めた
また信じようと決めた
きっと⋯⋯
でも。
“ばか”って、
言われるんだろう。
また、
言われるんだろう⋯⋯
うん。
そうね──たぶん、
だって、
“ばか”と”ぼく”とは似ている(笑)。
⋯⋯似ているんだから、
きっと、
“かなしみ”と”よろこび”とも、
似ているんだろう。
根拠なんてないけど。
ね?
あの高架の道路のしたを、
昔ながらの道がいくとき、
“上”の人たちには、
あたしの姿が、
見えないんだね?
ハイウェストのジーンズはいて、
スマホじゃなくって、
カメラを手にして、
街のあれこれを
切り取ってみせる⋯⋯
ザッ、ってノイズが入って、
らじおの音がかき消えた。
街の輪郭がゆがむ。
わたしの視線がなくなっていく。
わたしは押し流されて、
流されない、
ひとりの”唖”のように⋯⋯
いけない言葉。
だから、こと墓。
この情景を、
ひとつの蔭が、追っていく。
<ああ、な・つ・か・し・い⋯⋯>
それは消え去った夕暮、
昨日の残照、
昨日何があったのかも、
分からなくなって、
悲しみにあたしは暮れて、
グレて⋯⋯
でも、なつかしさだけが残ってる。
だから、生きていられる。
あたしはまた、家に帰る。
家には眠れる時間がある。
だから、大丈夫。
<な・に・が・だ・い・じ・ょ・う・ぶ?>
でも、大丈夫⋯⋯
だから、大丈夫。
きっと、大丈夫。
おまじないのように、
言葉抱いて⋯⋯
ああ、この情景はきっと⋯⋯。
ここに、
“あなた”がいてくれるのだから。
だから、
今はただ、
<お・や・す・み・な・さ・い>。
そう言って⋯⋯
あなたがいる⋯⋯
円環の情景。
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