新しい人生の詩のことを語ってる
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まともな人生のライフサイクルなんて信用しない
20年前の今頃はODを乱発していた
18時間電話したこともあれば
電話どころか電気も水道さえも止められたこともあった
8年大学に行って親の財産食い尽くした
ヒモにもなったし 失踪もした 保護室に拘禁された
テオドールをジョニ黒で一気飲みして
交換輸血で血を全部入れ替えた身体だ
新しい詩を書きなぐっていたい
新しい音と絵を紡いでいたい
死後評価でいい 現代詩くそくらえ
金はそれほどない 妻はクソだが娘はキュートだ
西園寺リルは鎖に繋がれた詩書きではない
新しい人生のことを語ってるのさ
新しい人生のことを描いているんだ
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誰も書いたことのない比喩が欲しい
誰も考えたことのないポエジーの思想が欲しい
ルー・リードになりたい
スザンヌ・ヴェガになりたい
誰も知らなかった西園寺リルを知りたい
素朴な詩がなんだ 難解な詩がなんだ 希望に溢れる詩がなんだ
おまえの恋愛を書いた詩がなんだというのだ
そんなの誰が誰でなくとも書けるんだ
毎日そんなの読みたかねえ
殺人の詩だってフェラチオの詩だって書いた
閉鎖病棟の詩だって体制批判の詩だってお笑いの詩だって書いた
ジャンルとかくたばれ カタルシスなんて死にさらせ
安心も妥協もしたくない なんだって書いてやる
たとえ誰も読まなくても 西園寺リルの詩が大好きなんだ
新しい人生の詩だけ描いていたいのさ
新しい人生の詩のことだけ考えてるんだ
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大学の時の原チャリ旅行を思い出す
中古で買った三万円のスズキのセピアだ
ゲンズブールのステッカー貼って
享年二十九歳って殴り書きしてあった
親友と一緒に夜中の九時に走り出した
北山通りから鞍馬山、貴船を越えて舞鶴へ
コンビニで買った地図にあるはずの道がなかった
迂回する国道は諦めて山道を越えた
ライダースジャケットで時速40キロの風を切った
途中でパトカーに出会って職務質問された
福知山まで走って腹痛に襲われた
うどん屋見つけたから鍋焼きホルモンうどんを食べた
綾部で白髪の爺さんに道を訊いたら危うく京都に戻りかけた
舞鶴市内に着いたのは夜中の三時過ぎだった
舞鶴文化公園は寒くて仕方なかった
ビジネスホテルで休みたかったが意外に高かった
電話帳調べて地元の創価学会の支部に電話した
学会員じゃないけど一晩泊めてくれと頼んだ
無論あっさり婉曲に断られた
深夜営業のガストーのブレンドで九十分粘った
ボブヘアーの店員の女の子の尻がよかったが無愛想だった
明かりが灯った名前の知らない神社に行ったら
ウォーキングしていた小柄のおばさんと長話になった
大学で宗教哲学やっているといったら
なぜだか吉田茂は好きかと訊ねられた
西舞鶴駅に行って新聞紙三枚被って寝た
券売機前のコンクリートが痛くて寝苦しかった
定年間近っぽい駅員が枕代わりに古雑誌くれた
明け方近くに丹後由良海水浴場に行った
岩場に腰を下ろして一時間キャメルを吸い続けた
ブラックの缶コーヒー飲みながら日の出を待った
釣りをしていたおやじとグレとチヌの違いを話していたら ようやく日の出
まぶしかった 神々しかった
日本海からのぼる日の出 初めて見た
感動しながら なぜだか必殺仕事人を思い出した
冬の日本海の日の出は必殺のエンドクレジットに似ていた
思わず連れと一緒に鮎川いずみの「女は海」を歌い出した
微妙に恥ずかしかったが大声で歌った
チワワを散歩させてた主婦に怪訝な顔をされた 知ったことではなかった
朝食に舞鶴名物海軍カレーを食べた
今でもその味を忘れていない ちょっとその店不味かった
給油で寄ったガソリンスタンドの角刈りの親父がおしゃべりだった
北区ナンバーを見てむかしは四条木屋町で大道芸をやっていたと自慢し始めた
自主映画を作っていると明かすと手土産のみかんを持たせてくれた
久しぶりに暖かい気持ちになって鞍馬口のアパートまで帰った
ルー・リードのニュー・センセーションズを聞きながら二十時間眠った
これを書いているいま四二歳 厄年だ
ちくしょう こんな稚拙なパロディでロードムービーの詩は初めてだ ざまあみろ
最近ちょっとだけ薄くなった髪の毛が気になる
だが知ったことではない
筆名 西園寺リル
みんなはリルと呼んでいる
ルー・リードのニュー・センセーションズを聞きながら
西園寺リルって名前が大好きだ 名前にキスしたいくらいにな
新しい人生のことを語ってるんだ
新しい人生のことを描いてるんだ
新しい人生の詩をさがしてるんだ
新しい人生のことを君に聞いているんだ
新しい君の人生の詩を
新しく君が描くことをな
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コメント
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名前にキスって、いいフレーズですね。ラストぐっときました。
服部さん、ありがとうございます。ルー・リードってミュージシャンが「バイクにキスしたいくらい好きだ」って書いてて真似しました。ラストは一番意思を込めたのでぐっときて頂けたら幸せです。
これはたまらん。書かざるをえない。デビッドリンチのロードムービーかと思った。
王殺しさん、ありがとうです。デビッドリンチのロードムービーと言えば思い出すのは僕はワイルドアットハートですな。
オレはリンチのロードムービーなら「ストレイト・ストーリー」しか思い付かないけど、それはまあいいとして。前半の吐露が刺さるというか、概ねオレも似たようなものだな。結局自分の詩しか好きじゃないし、自分が最高と思える詩人になりたいね。
こりゃヤバいすね、ルーリードも痺れるけれど、自分も学生時代に、原付(おいらはヤマハJOG)に日本海でも見せたろかと京都市内から小浜辺りまで2回ほど同じような旅をしたなと。
一度目はR162、二度目はR367だったか。
ちなみにリンチのストレイト・ストーリーはリンチらしくないところがリンチらしくて、オジぃがカッコ良くて好きです。
これで「すべてフィクションです」と言われるともっと面白いで(ぶっとんでま)すが、ノンフィクションでも十分に面白いで(ぶっとんでま)す。
トノモトさん、ありがとう。自分をどこかで天才と思ってるところが僕にはあって、だからこそ書き続けられるんだと思う。この詩は僕は最高に自分で好きな詩だね。
あぶくもさん、ありがとうございます。おっと、京都で学生されてたんですね。僕も小浜は一度だけ行きました。今は妻のリトルカブを時々乗ってますが、バイクで出かけるのはいいですよね。
たかぼさん、ありがとうございます。40パーセントくらいはフィクションですが、基本僕の物語ですね。舞鶴行ったのもそうですが昔は18時間も電話できたとかすごすぎです。尋常じゃないですね。
こんなこと書いたらお友達になってもらえないかもしれないですが。かつてのリルさんの詩はうんと考えないと私みたいに力の無い者には感想すら捻り出せませんでした。
最近拝読するものはお馬鹿な私でも触れる?と思わせてくれる何かがあります。
とても褒めています。
勢いで最後まで高揚して読めてしまいました。
たちまこさん、ありがとうございます。うれしいです。ぽえ会がなくなってから詩は試行錯誤を繰り返したんですが、「表現が難しい」と言われることが多々ありました。それではダメかもなあと思って書いた第一作がこれなんです。そういう意味ではこれは僕の中で記念碑みたいな作品ですね。